星空電車、恋電車
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翌日無事に幼なじみの結婚式を終えた後、叔父の家に戻る途中でふと思いついた。

ーーーそうだ、ここまで来たのだから早咲きの桜を見て帰ろう。


履き慣れないハイヒールだけど、恵美さんに選んでもらい購入したこの靴は思ったより履き心地が良くて歩くのにも苦痛はなく古傷への負担もない。

「足の痛みナシ、重たい荷物ナシ」そう心の中で呟き笑みがこぼれる。

久しぶりの故郷、散歩がてらお花見をしてから叔父の家に戻ろう。

花嫁になった幼なじみは実に幸せそうな顔をしていた。もちろん、彼女の夫となる人も両家のご両親も。
幸せのお裾分けをしてもらった気分で私の気持ちも上がっていた。嫌なことは忘れるのが一番だし、考えないようにしよう。

私の心に浮かんだのは前に住んでいた家の近くの土手に咲いている早咲きの桜並木だった。

ただ桜を見ながら歩くだけの散歩コース。
桜の木がある土手の遊歩道には人が座り込むようなスペースはなく、せいぜい立ち止まって見上げる程度。

花見の宴会がしたい人たちは、すぐそばのソメイヨシノの桜並木を見ることのできる大きな公園にいくからここは穴場だった。

春にはまだ早いこの時期、ソメイヨシノはまだ咲いていない。でもあの早咲きの桜は少しなら咲かせているんじゃないだろうか。一輪でもいいからここの土手の桜が見たいと思った。

子どもの頃から暮らしたこの街にある建物はもう人手に渡っていて自分のうちの物ではない。
両親の暮らす今の神戸の家は1年と少しの間両親と暮らしただけで、実家という感覚がない。
家族4人が揃い家のリビングで過ごしても実家で家族団らんというよりは心情として家族旅行に近いものであるように思う。

なんだかとても淋しい。
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