星空電車、恋電車
だからここの桜は私の記憶の中の家族で過ごした故郷というべき思い出の場所の一つで大切な場所で心のふるさとなんだと思うのだ。

だけど、目的の駅に着いてホームに降りた途端目に入った人を見て更なる後悔が私を襲った。

ーーー来るんじゃなかった、と。

ホームの中ほどに立っていたのは・・・
なぜか樹先輩。

春休みで帰省していたのだろうか。

ここは彼の故郷なのだからここに居ても不思議じゃないけど。樹先輩は一人で電車を待っている様子だった。

モスグリーンのTシャツにジーンズ姿で荷物は斜め掛けにした小ぶりのボディーバッグだけ。

神さまは意地悪だ。なぜここに、このタイミングで彼と出会うんだろう。
昨日は桜花さん、今日は樹先輩。

同じホームに立つ樹先輩がついっとこちらを向いて私の姿に気が付き大きく目を見開いた。
私たちの視線が重なる。

途端、私は身を翻して改札に向かおうとしたが遅かった。

「千夏、待って」

私の背中に樹先輩の声が刺さるように飛んできた。

ビクンっと身体が震えてしまう。無視するわけにもいかず立ち止まると、駆けだしてきた樹先輩が私の目の前に立った。
話をするのはあの時以来だ。

「千夏、あのさ…」

彼が私に何を話したいのか想像もつかない。
もう用はないはずだし、出会っても無視するように頼んだはずだし。先輩だってそれをわかってくれたからあれからうちの大学に来てなかったんじゃないのか。
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