星空電車、恋電車



翌日、今日こそは彼らに出会わないよねとため息が出そうな胸を押さえて、京平先輩のお土産を手に私鉄の駅のホームに立った。

本当にトラウマになりそうな路線だ。

到着アナウンスの後にホームに滑り込んできた電車を見て内心今日イチ大きなため息をついてしまった。

目の前に止まった電車、
それは桜色の『恋電車』だったのだ。

なんでよりにもよって”これ”なんだろう。

旅立ちの日に乗ったのは希望の星空電車で、忘れたいと願う恋を思い出しイライラしているのに到着したのは『恋電車』

『恋電車』はいつもの赤色の電車の塗装が上品な桜色に染められいていて・・・何というかとってもロマンティックな仕様になっている。

おまけにホームには有名な恋愛映画のテーマ曲のメロディーが流れていて。盛り上げようとしているのだろうけど、女子ウケを狙いすぎなんじゃないだろうかと思わざるを得ない。

ツイてない。

星空電車より遥かにこっちの方が質が悪い。

嫌がらせかよと心の中でツッコミを入れたくなるのも仕方ないはずだ。

何だよ、恋電車って。
もはやこの路線、私にケンカを売っているとしか思えない。

乗り込んだ車内も一風変わっている。
つり革の一部がハートの形になっていたり、広告は縁結びの神社のものばかり。
座席の生地も所々ハートマークになっている。
車内にお守り付き恋みくじの自販機まである。

正直やり過ぎじゃない?
居心地の悪さは私よりも男性客の方が強く感じるのだろうけど、女子大生の私でもちょっと引いてしまうレベルだ。

周りの乗客に視線を動かしてみると、やはり居心地が悪いようでどこか落ち着かない様子のサラリーマン風の男性や年配の男性。
反対に幼児や女子高生ははしゃいでいる。あ、男女問わず鉄道オタクらしき人たちも。

この『恋電車』の運行ダイヤは『星空電車』と同様に非公開になっていて狙って乗ることが難しいらしい。
本当になんでこのタイミングで『恋電車』に乗り合わせてしまうんだか。

自分の運のなさに呆れる。
ここの路線とは相性が良くないのかしら、と鉄道オタクにケンカを売るような自分の引きの良さにため息が出る。
『星空電車』に『恋電車』
この地に住んでいない私が両方乗り合わせるとかどんだけ引きが強いんだ。

・・・恋なんてまだ当分ゴメンだ。

両思いになっても相手の態度ひとつで楽しい恋が苦しいものに変わってしまうことをよく知っているし、あれから恋をしたいと思うような異性との出会いなど一度もない。

もっとも私には恋なんて必要ないと思っているのだから素敵な出会いを見逃しているのかもしれないけど。
あんな気持ちになるのなら、恋なんてしなくていい。


私を乗せた恋電車はターミナル駅に到着した。
一刻も早く電車を降りたかった私はドアが開くと同時に逃げるようにしてホームに降りたのだった。

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