星空電車、恋電車
「もう変な奴に付きまとわれてはいないよな?」

「うん、あれからは大丈夫。本当にご心配をおかけしました」

「あの何だっけ、千夏ちゃんの先輩ってヤツ、あの彼がいてくれてよかったよ」

「そうなの。あれは本当に助かっちゃった」

山下さんが言っているのは二年ほど前の合コンで知り合った人にしつこくされてしまった時のことだ。

大学3年生の時、人数合わせで久しぶりに参加した合コンで知り合った男性に執拗に待ち伏せされるようになってしまったのだ。
その人は男性側の参加者の知り合いの知り合いという他の大学の人だった。

付き合っている人がいないのなら自分と付き合って欲しいと言われたけど、その男性が好みのタイプではなくというだけでなく異性として惹かれるものが何もなかったので丁寧にお断りをしたーーのだけれど引いてはくれなかったのだ。

ユキやいづみも心配して一緒にお断りしてくれたんだけどなぜか聞く耳を持ってくれず、講義の終わる時間に合わせて大学に顔を出されることもあった。

「君に彼氏が出来たら諦めるよ」

そんな一言に以前なら迷わず山下さんに助けを求めただろうけど、その頃にはもう山下さんは東京で就職していたから、仕方なく偽彼氏役をお願いすることにしたのは京平先輩だった。

京平先輩に事情を話すとすぐに対応してくれた。
「もっと早く言え」とお叱り付きだったけれど、快く私の大学に来てくれた。

男性は私の隣に立つ京平先輩の姿を見ただけで実にあっさりと「もういいや。お幸せにね」と去って行った。
その人はそれからピタリと私に近づいてこなくなり姿を見かけることもなかった。

アスリートだった京平先輩は身体がデカい。身長もだけど、筋肉質で肩幅とか胸板とか。
それに顔もなかなかいいのだ。
京平先輩を見ただけであっさりと引いてくれたからよかったけれど、偽装彼氏だと見破られたり、あれ以上しつこくされなくてよかった。

心配症の京平先輩はその後もしばらく登下校の時など送り迎えしてくれて本当に迷惑をかけた。
お礼の品は勿論叔父に頼んで手配してもらった松濱屋の激レア塩辛の詰め合わせ。
非常に喜んでもらいSNSに動画が沢山アップされていたとかいないとか・・・。


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