星空電車、恋電車


土曜日。
私は樹先輩との待ち合わせ場所に向かうため電車に乗っていた。

揺れる車窓から見えるのは高校時代の後半だけを過ごした街並みだ。

樹先輩と過ごした高校生活前半の日々に見ていた景色とは全く違う。
あの頃見ていた景色は学校、陸上競技、海は砂浜だった。
ここの海は港だし、都会的なビルやファッショナブルな建物だらけ。

私がおばあちゃんになったとき、ふるさとと呼ぶのは何処なんだろう。
高校2年まで過ごしたあの場所なのか、両親が暮らす今の場所なのか。

樹先輩と嫌な別れ方をしたことであまり思い出さないようにしていた17年間暮らしたあの場所が今はとても懐かしい。

学校帰り、電車の窓から踏切に立つ樹先輩に小さく手を振った毎日。
樹先輩と手を繋いで眺めた潮の香りがする海岸の遊歩道。
ふたりが付き合うきっかけになった学校のグラウンド。

どれもが懐かしく胸の奥がきゅうっと締め付けられるような思い出の一場面。
忘れるなんてことはできるはずもなかった。
あれからずっとずっと樹先輩が私の心に居座っていたのだから。



流れる景色が駅のホームに変わり電車の到着を待つ人々に視線を向けた途端私は目を見張った。

それは彼も同じだろう。
待ち合わせの場所に着く前に合流できるとは思わなかった。

まだ待ち合わせ場所からはかなり離れている私鉄の駅のホームに樹先輩がいて、電車に乗り込んでくるところだったのだ。

樹先輩も驚いたようだったけれど、すぐに吊革につかまる私に向かって真っ直ぐ笑顔で歩いてきた。
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