星空電車、恋電車
「偶然だね。早く会えてラッキーだな」
4年振りに会う樹先輩はずいぶんと大人になっていて、なんだかとても余裕のありそうな笑顔を向けてきた。

「まさか同じ電車になるとはびっくりです。どこから来たんですか?」

どうやら新幹線で東京から新神戸に来たってわけじゃなさそうな樹先輩に問いかける。
ここは新幹線の新神戸駅から私との待ち合わせ場所に向かうルートとは全く違う路線だ。

だから東京から新幹線で来たはずの樹先輩はどこかに寄ってから私との待ち合わせ場所に向かうためにこの電車に乗ってきたと考えたのだけど。

最後に話してから4年と少し。
再会してすぐの会話がこんな普通な感じになるとは思わなかった。

どんな顔をして会えばいいのかとか何をどんな風に話したらいいのかちょっと思い悩んでいたのに、こんな風に思いがけない場所で出会ってしまったらそんなこと飛んでしまった。

身長・・・伸びてる。あの頃よりも背が高い。
私の記憶にある樹先輩は高校生の時のものだからまだのびていたのか。
高校生の時は優し気な印象が強かったけれど、顔立ちも25才という年齢相応以上に引き締まっていて精悍な感じ。

「千夏に会う前に仕事でお世話になってる人のところにちょっと挨拶に寄っていたんだ」

寄り道してたんだ、この電車に乗ってきた理由がわかって納得した。
それにしてもまだお昼を過ぎたばかりの時間だ。

「だったら今朝はずいぶん早起きだったんじゃないですか。新幹線、ずいぶん早い時間だったんじゃ?」

「まあね、でも千夏に会えると思ったら少しの早起きくらい何でもないよ」

樹先輩の口からすらりと出てきた思ってもみない言葉にドキッとする。
これってまるで私に会いたかったからだって聞こえなくもない。

今の言葉に間違いなく私は狼狽えてしまった。おかげでうまく返事をすることができない。

「ええっと」と声が裏返りそうになって慌てて口を閉じた。

もしかして顔が赤くなったかもしれない、どうしよう。
社交辞令も通じないバカな女だって思われたら恥ずかしすぎる。
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