星空電車、恋電車
「千夏」

顔を上げた樹先輩の瞳の力が強くなっていた。

「はい」

「俺の前からちーが突然いなくなってしまった時は何が起きたのかわからなかった。ただ自分は無力だって思ってた」

「4年前、再会して直接理由を聞いた時にやっと自分の愚かさがわかった。わかったけど、千夏のことを好きな気持ちは変えられなかった。でもそれを押し付けることはやめようと思った。俺の姿を見たら千夏をまた傷つけるから。それからすぐに留学の話が決まって、やっぱり千夏ときちんと話したいと思った。そんな時だったんだ、京平に千夏が幼なじみの結婚式で故郷に戻るって聞いたのは」

あの駅のホームで会った時のことだ。

「ちょうど同じタイミングで帰郷するって聞いてもしかしたらどこかで出会えないかなと期待していたのは事実だけど、待ち伏せしてたわけじゃないよ」

さすがにね、と樹先輩は苦笑した。
あの場に桜花さんがいたのも全くの偶然なんだとか。

「京平から千夏のバイト先を聞き出していたからそっちで会えると思った。でも行ってみたらカフェは改装中で営業してなくて焦ったよ。大学も春休みだったしね。留学の出発まで時間はないし、仕方なく京平を頼った。とにかく出発前に千夏と話がしたくて」

京平先輩からの電話なら私が電話に出るだろうと思ったから。
まあ、それは間違ってない。あの頃、京平先輩と私は親しい友人関係だった。

あの頃京平先輩は私に恋愛感情などなかったと思っている。合コンの成果とか聞かされていたし。

「俺は、高校生のあの頃と変わらず、千夏のことが好きだ」

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