星空電車、恋電車
「俺、頑張ってきたつもりだ。今までのことを振り返って反省すべきところもあったし、好きな女性に頼ってもらえないような情けない男だったからね」

樹先輩の言葉に私の胸がチクリと痛む。

「いいえ。私が頼れなかっただけで、先輩が頼りなかったわけじゃないです。実際あの頃先輩の幼なじみの子は樹先輩を頼っていたわけですし。私が信じることができなかっただけで」

私の”幼なじみ”の単語に樹先輩の顔がわずかに曇ったことに気が付いて
「あ、ごめんなさい。嫌味じゃないんです。私も幼かったって言いたかっただけで」
不用意な発言にごめんなさいと頭を下げる。

「私もね、少しは大人になったと思うんです。胸を張って樹先輩に会いたかったから」

あれからずいぶん時間が経ち、すっかり大人の男性になった樹先輩を正面から見つめ笑顔を向けた。

「ちー」

樹先輩の両手がまっすぐ伸びてきて目の前で止まった。

「触れていい?」

思っても見ない言葉にかっと顔が熱くなり俯きながらこくりと頷いた。
私の両頬がそっと大きな温かい手に包まれて、更に顔が熱くなり体温が上がった気がする。

「可愛らしかったちーが綺麗な大人の女性になってる。もう一度君の隣にいたいって言ったらちーはどう思う?」

隣にいたい
樹先輩の口から出たその言葉が嬉しすぎて声が出ない。

どうしよう。嬉しい。
震えがくるほど嬉しい。
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