星空電車、恋電車
翌日、練習前に部室に向かって歩いていると、制服姿の樹先輩があわただしく荷物を持って部室から出ていくのが遠目に見えた。

ウェアに着替えもしないでどうしたんだろう。
その私のその疑問はすぐに解決した。

「おーい、水口。樹、今日は部活休むってさ。一緒に帰れないって伝えてくれって言われたぞ」
私が着替えてグラウンドに出ると、すぐに京平先輩が声をかけてきた。

「部活休むんですか?」
樹先輩が練習を休むなんて私が知ってる限りなかった。

「体調とか悪いんですか?」
「いや、樹は元気だったけど、知り合いが入院したから病院に行かないといけないって言ってた」

知り合い?
知り合いって誰だろう。
知り合いってまさかあの子のこととか?

あの日海岸で出会ったあの子。
樹先輩をいっくんと呼んでいたあの子。幼なじみだって言ってたけど。

今日は私も両親の引っ越しの話をしたかったのに。
すごく嫌な予感がする。

「水口」
京平先輩の声に顔を上げた。
「大丈夫か?なんかスゲー顔になってるぜ」

「スゲー顔ってなんですか。女子高生に向かって」ずいぶん強ばった顔をしていたらしい。
京平先輩には樹先輩の幼なじみのことを考えてたことも引っ越しのことも言いたくなくて怒ったふりをしてその場を離れた。
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