星空電車、恋電車
『海岸前駅で会った幼なじみの桜花なんだ。向こうのお母さんからも支えて欲しいって言われてるから、これから何度か見舞いに行くことになると思う』

『先輩の練習は?インハイ前なのに…?』

今まで何があっても練習を休まなかった樹先輩なのに。
私の胸の奥に嫌な何かが生まれた。

『練習はもちろんきっちりやる。でも、練習後に病院に寄る事があるかもしれない。だから、ちーと帰れない日があるかも、って』

え…。
私の胸の奥で生まれた何かがどす黒い塊になっていくのを感じる。
それってただの幼なじみの役目なの?

『ちーは何も心配しなくていいから』

”ちーは心配しなくていい”

それは私を気遣うように見えて実は私の介入を拒絶した言葉だ。
私はそれ以上何を伝えたらいいのかわからなくなってしまい、スマホを握りしめる。

『で、ちーの話は何?』

ついでのように訊かれてムッと気分が悪くなってしまう。
私の方は人生が変わるかもしれない重大なことなのに。
返信しようとする手が止まってしまった。

既読が付いたまま返信されない画面に業を煮やした樹先輩からまたメッセージが入る。

『何か話があったんじゃないの?電話にしようか?京平から物理の宿題の質問が来てるから先にあいつに返信してからちーに電話するから。ちょっと待ってて』

私の心がひんやりとした。

樹先輩にとって私の存在って何だろう。
優先順位はなんて聞くつもりはない。先に京平先輩の用事を済ませたあとでゆっくり話を聞くつもりでいてくれているんだろうけれど。

でも、今夜はどうにも私の心が凍り付きいうことをきかない。

樹先輩には幼なじみが大切で。
京平先輩も大切で。
私は後回し。
どうしてもそう思えてしまうのだ。

『やっぱり、会った時に話しますから今夜はいいです。もう時間も遅いし、受験生の樹先輩の大切な時間を使うべきじゃないと思うので』

そうメッセージを送って、樹先輩から返信される前にネコがバイバイと手を振りながら”また明日”と書かれたスタンプを送ってアプリを閉じてしまった。


私の心に生まれた黒い塊がしっかりと私の中に根付いていくのを感じたーーー
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