星空電車、恋電車
「うん。板谷トレーナーから、土曜日は協会の研修会があって練習会に参加できないって連絡あったから、短距離グループも居残りはないんだ。だからちーと同じ時間に終わるよ」

にこっと笑顔で「一緒に帰れるね」と言われて
「わー、やったぁ」と私はたくさんのハートマークをとばしながら拳を天に向かって突き上げた。

「ちーは大げさだな」
「だってー、久しぶりですよ。下校以外で二人きりで歩くなんて」

樹先輩はえ?とポカンとしたような顔をした。
「そうだっけ?」
「そうですって」

まさか樹先輩はこの帰り道以外で私たちが二人きりになることなんかほとんどないってことに気が付いてないのかな。
うーん、と首をかしげている樹先輩の方がおかしい。どう考えても。

「この間のスタバは?」
「席に座って5分もしないうちに京平先輩と松山さんが来たじゃないですか」
(松山メグミさんは樹先輩を狙っていて私がいても堂々と樹先輩に近付こうとしてくる人なので京平先輩が頑張ってブロックしてくれている。ちなみに樹先輩は彼女のことをただの同級生としか見ていない)

そうか、と樹先輩が小さく頷く。

「エムジェイ競技場の帰りに寄ったマックは?」
「後から愛美と京平先輩が合流してきましたよね」

ああ、そうだっけとまた頷いた。

「アンチドーピング研修会の後は・・・」
「会場入った途端に修明学院高校の人たちに囲まれました」

そのまま帰りの電車の中でももまとわりつかれてたじゃないですかと言うと、そうだったねと樹先輩も気まずそうに視線をそらした。

「市営グランドでやった測定会は別行動だったし、壮行会の準備は樹先輩は担当じゃなかったし食事会じゃ1年生の女子と久本マネージャーに囲まれてて私は近付けなかったし。帰りもなぜか京平先輩と直人くんが合流してきたし。先輩と私は学年も違うから学校行事の修学旅行も遠足も一緒に行ったことないんですよ」

樹先輩が口を開こうとした時に次々と先まわりして文句をたらたらと言ってしまった。
まさかこの人、本気で気が付いていないんだろうか。

これじゃ拗ねているのが丸わかりかもしれないけど、止められなかった。
だって私たちカップルらしいこと何にもしてない。
< 4 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop