星空電車、恋電車
「そっかー神戸なのねぇ。探してるのは関西出身者じゃないからチナちゃんはどうやらあいつが探してる”ちーちゃん”じゃないみたいね」

さほど残念そうでもないところを見ると、柴田さんは”ちーちゃん”を本気で探しているわけではなさそうだし、”ちーちゃん”がどういう人で自分の幼なじみとどういう関係だったのかなんてこともわかってないのかもしれない。

「もういいか?俺たちこの後プラネタリウムに行くから時間がないんだけど」

山下さんが間に入ってくれたことに少しホッとする。
もうこの話題から逃れたいし、柴田さんからも離れたい。

「ああ、ごめん。早く入らないといい席とれないもんね。行って行ってー。またね、斎藤さんとチナちゃん」

バイバイと手を振る柴田さんに軽く頭を下げた。

”ちーちゃん”が同郷人だと思っているらしい柴田さんに私とちーちゃんが別人だと思われたのは幸いだ。

「じゃあな」と片手を挙げた山下さんだったけれど、「ねえ」と違う声がかかった。
柴田さんの隣に立っていたダークブラウンの巻かれた髪がとても綺麗なお姉さんだ。

「プラネタリウムの後、星空ミーティングに参加するんでしょ?よかったらミーティングの前にみんなで一緒に食事とかどうかな」
テレビで見るような作り物のような綺麗な笑顔で山下さんを見つめてくる。
この人、目が笑ってない。怖い。

みんなって言いながらも狙いは山下さんってことで間違いなさそう。

・・・この流れ、イヤだな。
山下さんが「いいよ」って言ったらこの5人でご飯を食べるってことでしょ。
一刻も早く柴田さんから離れたいのに。

山下さんが「どうする?」なんて言い出したら先輩であろう女子二人を前に私に断る勇気はない。
心の中で固唾を飲んで山下さんの返事を待った。

「いや、この後、ミーティングまでの間も俺たちは予定があるし遠慮させてもらうよ」

爽やかな笑顔で「じゃあね、木下さん、柴田」と言い、私の頭をぽんっとして恵美さんの背中には腕を回して行くぞというように歩き出した。

おお、早業。
山下さんの慣れた仕草に従って私たちは歩き出していた。

私と恵美さんを両サイドに挟んで山下さんはスタスタと歩いていく。
恵美さんの背中にはエスコートするように山下さんの腕が回ったまま。私は歩きながらそんな山下さんの顔をちらっと見上げた。

何ごともなかったように普通の顔して歩いているけど。
私は気が付いていた。

柴田さんと一緒にいた木下さんという綺麗なお姉さんが私と柴田さんが話している間、恵美さんのことを睨むような強い視線を向けていたのを。
そしてそれに気が付いた山下さんが半歩前に出て彼女からの視線を遮るように恵美さんの前に身体を出していたことを。

今は恵美さんの背中に腕を回したままで先を急ぐように歩いている。

恵美さんも無理にその腕を解こうとしていないところを見れば、いい雰囲気と言えないこともない。
三人の間に何があるのか知らないけど、ナイス、山下さん。
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