星空電車、恋電車
柴田さんたちと話していて入場するのが遅くなったせいかプラネタリウムの中の座席は結構人で埋まっていて、3人が横並びで座れるところはなかった。

「私、あそこに座ります。お二人はそのすぐ後ろのとこに座ってくださいね」
恵美さんにそう言って一つだけ空いている席に素早く座った。その後ろに二人が並んで座れるスペースがある。

「あ、ちなっちゃん待って。私と一緒に」
「千夏ちゃん、斎藤とーー」
二人の声が被る。

「終わったら声かけて下さい」
さっさと座席のリクライニングも倒して移動しませんという意思表示をした。

視界の端にしぶしぶ移動していく恵美さんの姿が見えて私は内心ほくそ笑んだ。

ごめんなさい。

山下さんに協力しようと思ってる気持ちもあるけれど、さっき柴田さんに言われたことが気になって一人になりたかったのも事実で。
気持ちを落ち着かせたかった。

ほどなく場内が暗くなりナレーションに合わせて音楽が流れると、私は大きなため息を吐いた。

後輩女子を探している、だなんて樹先輩はどんな気持ちでそれを柴田さんに言ったんだろうか。

私を見つけて責めたいんだろうか。
急に黙って居なくなった私を。

そもそも彼はーーーなぜ私が黙っていなくなったのかわかっているんだろうか。折しもプラネタリウムのシアターには流星群が投影されている。

あの日、あの夜、樹先輩と流星群を見なかったら。
私も京平先輩のおふざけに参加していたらこんな気持ちになることはなかったんだろうか。

つつーっと涙が零れ落ちた。

樹先輩のことを好きだったあの頃の自分を否定したくない。
私は私なりに一生懸命好きだったし、樹先輩だって優しかった。

ただ、樹先輩にとって大切だったのは私より桜花さんだったってだけのこと。

もう忘れよう。
もう新しい生活も始まっている。
新しい恋をしよう。
そうすれば、樹先輩にどこかで出会ってしまったとしてもこんなに動揺しなくて済むのかもしれないから。

ーーーそれからもプラネタリウムのプログラムの内容はちっとも頭に入ってこず、ひたすら睨むように天井を見つめて涙を止めようとして過ごした。

プラネタリウムが終わって目と鼻を真っ赤にさせた私を見て山下さんと恵美さんをギョッとさせてしまったのは言うまでもない。
「織姫と彦星が可哀想で」というわかりやすい嘘に頷いてくれた二人に感謝。


それから天文台の隣の公園でテイクアウトのファストフードを食べて星空ミーティングに参加した。
聞きたいことも言いたいこともあるだろうに二人は何も触れてはこなかった。


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