星空電車、恋電車
「別に今は彼女とか欲しいわけじゃないですから」

「会わなくていいんだね」
「だから、別に誰かを紹介して欲しいとお願いしてませんよね」

ちょっとイラつく。
山下さんは明らかににやつきはじめた。

「そうか、じゃ紹介しなくていいな。別に彼女も君に会いたがってたわけじゃないし」

「お互い会いたくないならちょうどいいのではないでしょうか」

「お互いじゃないでしょ。会いたくないのは彼女だけで、少なくとも俺の目には倉本君は彼女と話したがっているように見えたけど?」

何だというんだ。どういうことだ。
山下さんは何か具体的な話をしているのか?


「水口千夏」

山下さんの口から予想外の名前が飛び出した。
驚きに瞬きを忘れる。

「君、千夏ちゃんには会いたくないって事でいいよね?」

「どうしてその名前を…」
ドンッと胸を叩かれたような衝撃を受ける。

千夏

突然いなくなった俺の高校時代の彼女。

「山下さん、千夏と知り合いなんですか。どうして知ってるんですか。山下さんや沙百合と同じ大学に通ってるんですか?知り合いなら千夏に会わせて下さい」

「あれ?紹介しなくていいんじゃなかった?」
意地悪そうな瞳が俺を嘲り笑う。

「相手が千夏なら話は別です。会わせて下さい」

「先に言っておくけどね、別に千夏ちゃんが君に会いたがってるわけじゃないんだ。俺がたまたまかがみ台の観測会で千夏ちゃんを追いかける倉本君を見かけただけだから」

山下さんに必死になって頼む俺に彼はまた意地悪く笑った。

ああこの人はあの時の俺たちのことを見ていたのか。
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