星空電車、恋電車
駅前広場には待ち合わせポイントが三か所ある。
自家用車の送迎レーンの長い雨除けアーケード、駅の正面にある噴水前。それと送迎レーンの反対側にある大銀杏の木だ。

駅を出て右手側の大銀杏の木の下を見ると、樹先輩の姿がすぐに目に入った。
スキニーデニムにジップアップブルゾン。
京平先輩と会った時と同様、ほとんど学生服とスポーツウエアー姿しか見たことがない私には樹先輩の私服姿がとても眩しく見える。

思わず立ち止まりそうになったところで樹先輩がこちらを向いて目が合ってしまった。
あの観測会の時と同じような距離だ。

今度は逃げない。
グッと奥歯に力を入れて樹先輩に向かって踏み出すと同時に彼がこちらに向かって駆け寄ってきた。

「ちー」

懐かしい呼び名で呼ばれてギュッと胸がつかまれたように痛みだす。

目の前には少し大人っぽくなった樹先輩。
笑いかけることも口を開くこともできずに視線をそらして樹先輩の膝下あたりを見つめた。

「ーー会ってくれてありがとう」

頭の上からかけられた言葉にこくりと頷く。
本当は”ありがとう”だなんて言われる筋合いはないんだけど。
私は私のけじめをつけるためにここに来たのだから。でも、何の返事もしないのはどうかと思って頷いた。

「寒くない?どこかに入ろうか?」

私は首を横に振った。
「ここの隣の公園に行きませんか?」
それは初めから考えていた場所だった。

そこは駅に隣接した城下公園で、お堀の周りは散歩コースになっている。芝生広場や釣り堀もある。その周りには野球場やテニスコートもあって広大な敷地のあちこちにベンチや東屋があるのだ。ここを教えてくれたのは恵美さんだった。

樹先輩が頷いたのを見て歩き出した。
一歩先を歩いた私に樹先輩はすぐに追い付き肩を並べる。

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