星空電車、恋電車
すぐ隣に樹先輩がいる。
相変わらずドキドキするけど…2年前と違うのは私たちがもう付き合っていないということ。

カフェで向かい合わせに座るよりは顔を見なくて済む分だけ肩を並べて歩いた方がましだ。

「千夏」
彼の方から話しかけてきた。
これは戦闘開始の合図。

「ここ、初めて来たけどいい公園だね」

先輩の言葉に拍子抜けしたというか、なんというか。

樹先輩は樹先輩だった。
緊張感MAXの私と違って、以前と変わらぬマイペースぶり。

落ち着いた雰囲気は2年前と変わらない。
私の顔を見てもかがみ台の観測会の時に見たような焦ったような表情など今日は微塵もない。
そんな様子にあれは気のせいだったのかもしれないとさえ思ってしまう。

「そうですね。広くて、お城もあって」

そんなことどうでもいいような返事に聞こえてしまったかもしれないけど、何を話していいのかわからなくて目に入った景色をそのまま口に出してしまったことに気が付いてさらに動揺してしまう。

心の中はもうプチパニックで。
そんな気持ちを知られたくなくて懸命に落ち着こうとすると、またドキドキし始める。
やばい、足が震えてきた。

ちょうどよいところに東屋があるのが見えて立ち止まると、樹先輩も気が付いてくれた。

「座る?」

落ち着いた声で問いかけられて私は頷いた。

「・・・それで、山下さんとはどんな知り合いなの?」

え?

どうして黙っていなくなったのとか、どこに引っ越したの、とか今何してるのとか聞かれるのかと思っていた私は思いがけない質問に戸惑い、すぐに答えられないでいた。

そういえば、山下さんと私の関係って何だろう。

弱みを握られて山下さんと恵美さんの間を取り持つことになったとか、そんなこと言う必要はないだろうし。

いや、そもそもその弱みって樹先輩から逃げたとこを見られたんだからーーそれはもう弱みでも何でもないし、あのサークルには入らなかったからそういう上下関係もない。
山下さんはいいお兄さんで、私だけじゃなくてユキにもいづみにも優しいし。

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