姫は王となる。
「以上です。このことを王様に報告するかどうかは、老婆の判断にお任せします」
呆然としてしまっている老婆に頭を下げ、扉に向かって歩き出す。
「…お待ちください。風」
扉を開けようとした時、老婆に呼び止められた。
「あなたは…風は、何を考えているのですか?北国の本来の目的と、西国からの縁談話があることはわかりました。しかし、風…あなたは一体、何をなさるつもりですか?」
扉に触れていた手を下ろし、後ろに振り返った。
「西国の王子が言われていた"お前が消えてくれた方が好都合"という発言、まさかとは思いますが…」
「私は、護衛長です。この東国のため、王様のために職務を全うするまでです」
「風っ…王様は、そのようなことは望んではいませんっ。王様が本当に望まれているのはー…」
「その望みは、東国にとって何の利益にもなりません。むしろ、弱点となってしまっています。それは、王様もわかってらっしゃいます」
「しかし…」
「西国の王子が東国を訪れ、縁談話が出たということが北国に伝わるのは時間の問題です。王様がご決断される前に攻めてこられたら、東国に勝ち目はありません。ですからその前に、私は護衛長として手を打たねばなりません」
「しかし、風…」
「以上です。それでは、職務がありますので失礼致します」
老婆に一礼し、背を向け扉を開けた。
「風っ…お待ちなさい!」
老婆が呼び止める声が聞こえるが、今度は足を止めることなく応接室から出た。