お日様のとなり
「あたしね、将来お医者さんになるんだ。親から条件出されてて、んなもん飲めるかーって揉めてもみたんだけどね。家がちっさい病院やってて、それ潰したくないっていうのも実はちょっと思ったりしてて。だから、さ。あたしのカメラは、この文化祭終わったら引退なの」
すぐに信じられるような話ではなかった。
だって、あんなにも想いを込めて写真を撮る真央先輩が、本当にカメラを辞めてしまうなんて。
漠然と、進学や就職をしたとしても、どこかで写真を撮り続けるのだろうと思っていたから。
だけど、嘘を言っているようにも見えなかった。
悲しいはずなのに、悔しいはずなのに、笑顔で話す真央先輩に迷いはないようだった。
「……ありがとう」
そう言ったのは真央先輩だ。
驚いて顔を上げる。
いつもの花が咲くような笑顔ではなく、優しいふんわりとした笑顔の真央先輩が目を細めて私を見ている。
「私、お礼を言われるようなことなんて何も」
「だってあたしの話聞いて、そんな顔してくれてるんでしょ?」
「え……?」
手の平で顔をなぞる。
でも、それだけでは自分がどんな顔をしているなんて分かりっこない。
そんな顔って、どんな顔だ……。
お礼を言ってもらえるような顔なんて、私には出来ない。