壊れるほど君を愛してる



「ねぇねぇ、僕は誰?」


心理治療をして記憶を忘れた後、俺は周りの空気などを考えずに聞いてしまっていたのだ。お母さんは隣で泣いていた。


「君は翔、藤田翔よ……。私は翔のお母さんなんだよ……」


「僕は翔なんだね!お母さん、よろしくね!」


今思えば、中学生にしてはヤバいほど無邪気な子供にだったと思う。


その次の日。俺はお母さんに言われて、おじさんと話をさせられた。


「翔君、どこか行きたい高校は無い?」


「高校って何ですか?」


「中学校から卒業したら行く学校だよ。小学校から中学校に行く時とは違って、高校に行く時はテストを受けないといけないんだよ」


おじさんは優しく説明してくれた。


「行くところが無ければ、僕の高校に来てほしいんだ」


おじさんがそう言って、俺は首を傾げた。


「“西宮”高校っていうところなんだ。少し簡単なテストを受けてもらうよ」


「はい!行きます!」


俺はギリギリ授業内容を覚えていたので、無事にテストに合格して入ることが出来た。


テストの内容は実に簡単だった。数学というより算数のような感じで小学校レベルの問題だった。私立幼稚園が受けるような問題もあった。記憶の無い俺に気を遣ってくれたんだろう。


今気付いたけど、あれは世間で言う裏口入学って言う奴だった。


高校に入ると、先生達が優しく俺を見守ってくれていた。


「おい。俺は綾田優樹、よろしくな」


「僕は藤田翔だよ。よろしくね!」


一人称が「僕」だった俺に優樹は拍子抜けしていた。


優樹はいつも隣に居てくれた。優樹と一緒に居て、俺の言葉遣いや一人称も変わった。


好きなものということが無かったので、優樹と一緒に居て感化されたものを身に付けようとした。


ある日、女の子に呼び出された。


「呼び出したのは君?僕……俺は藤田翔だよ。よろしくね」


俺がそう言うと、その女子は今にも泣きそうな顔をした。


「そっか、覚えてないよね。私は植木咲花。翔と付き合ってたんだ」


俺と付き合っていた?俺には全く意味が分からず、完全に目の前の女に拒絶していた。


「……じゃあ、別れよう。俺、知らない人と付き合うとか気が引けるから」


俺がそう言うと、咲花は泣いて走り去った。その時の俺は、女なんか意味わかんねぇと思っていた。


優樹が咲花を狙っていたらしく、二人は付き合うことになった。優樹は付き合っても、いつも俺の隣に居てくれた。


『翔は俺の大切な友達だから』


優樹がそう言ってくれた時はとても嬉しかった。


それで、やっと普通に生活が出来るようになったんだ。俺はそう思えたんだ。




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