壊れるほど君を愛してる




先輩が記憶を無くしたのは病院で目を覚ましてからお父さんに言われた。


先輩はかなりの精神的ショックで、最新の治療で記憶を忘れさせたらしい。それを聞いて、私は申し訳なさを感じた。


――お前のせいだ。死ぬなら早く死ね。


私は学校に戻ると、周りで酷いことを言われていた。また消えてしまおうと思った頃だった。


「そうやって、人の悪口を軽々しく言うなよ!」


そう言ったのは、私がかなり警戒していた先輩と同じサッカー部の爽だった。まさか、爽がそんなことを言うとは思っていなかった。


「大丈夫か?」


爽は急に優しくなって、いつも私に気遣ってくれるようになった。そうなった理由は、私への申し訳なさらしい。爽は以前に言っていた。


「俺らがお前を傷付けたせいで飛び降りて、先輩が記憶を無くしてしまったんだ。だから、本当にお前には申し訳無いと思ってる」


だから私は苦痛な中学校での生活を終わらせ、お祖父ちゃんに言われた高校に入学させられた。


高校の人は私の過去など知る由も無くて、普通に過ごすことが出来た。


だけど、やっぱり先輩のことは忘れられない。


同じ学校だと期待して、グラウンドの外側からサッカー部の練習を見ていた。やっぱり、先輩が居た。シュートをいつも決めていた。


いつもそんなカッコいい先輩に惹かれていた。忘れようと思っても忘れられなかった。どんなに嫌われても、嫌いになんかなれなかった。


今日も私は君を壊れるほど想い、愛してる。君に忘れられていても、やっぱり君が好きなんだ。


廊下ですれ違う時に話し声が聞こえた。


『僕ね、なんか忘れちゃったの』


先輩は記憶を忘れたことによって、かなり幼稚になったみたいだ。そんな先輩も良いと思ってしまう。


君が好き。この気持ちはまだ忘れられないだろう。捨てようと思っても出来なかった。


毎日、私はサッカー部の練習を見ていた。いつもグラウンド女子が集まっていて嫌だけど、どうしても君がサッカーをしているところを見ていたかった。


もう、君は記憶を戻そうとは思わないだろう。だから私は静かに片想いをしていた。


君への気持ちがたくさん募って苦しくなるけど、私は本当の運命の人に会えるまで我慢しようと思っていた。


もう君とは関わらないと思っていた。君は何もかも忘れてしまったから。



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