極上御曹司に求愛されています

綾子は大きなため息を吐いた。

「誰も引き受けないって……そんなことないでしょ? だって礼美に頼まれたら断れない人ばかりなのに」

芹花の両親のように、地元には礼美の両親が経営する小沢食品で働く者は多い。
芹花や綾子の同級生の中にもたくさんいるし、家族が働いているという者も少なくない。
社長令嬢の礼美に頼まれれば、大抵のことなら断れない。
礼美の機嫌を損ねただけでクビにされるわけではないが、社長の機嫌を損ねればやはり居心地は悪くなるだろう。

「どうしてみんな引き受けないの? だったら私が引き受けようか? 綾子、困ってるんでしょう?」
『バカじゃないの? 自分の元カレの結婚披露宴で受付なんておっかしいでしょ』
「ま、まあそうだけど」

芹花は口ごもった。
言われるまでもなくたしかにおかしいのだが、綾子が困っているのなら受付くらい、大丈夫だ。

「私のことなら気にしないで。まあ、私より新郎新婦のほうが気まずいかもしれないけど」
『気まずいと思うくらいなら、芹花を披露宴に招待する無神経なことしないわよ。それに、いくら私が困ってても、芹花にそんなことさせるわけないでしょ。芹花が出席するってのも信じられないんだから』

綾子は「ほんとお人よしなんだから」とぶつぶつ呟く。

『もしも披露宴で嫌なことされたら礼美だろうが元カレだろうが、私がガツンとやってやるから、安心していいからね』
「……穏やかじゃないなあ。ちょっとは落ち着こうよ」



< 54 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop