極上御曹司に求愛されています
美大出身といっても、好きというだけで続けてきた絵だ。
自分の作品を買ってくれる人なんているのだろうかと不安ばかり。
もちろん、誰もが経験できるわけではない幸運に背を向けるようなことは考えなかったが、何度も打ち合わせを重ねいよいよ発売を来月に控えた今でも、これは現実なのだろうかと半信半疑だ。
「でも本当に、キレイ」
芹花は手元にあるイラスト集の見本をそっと手に取った。
描き下ろした表紙の絵は、色とりどりの傘が晴れ渡った青空をゆるやかに昇っていく様子が描かれている。
傘は雨降りの時に使うが、気が付けば雨もやみ傘が次に必要になるまで手元から離れていく。
どんなに悩んでいても、いつかはキレイな青空のように気持ちのいい世界が誰の胸にも広がっていくはずだから、気張らずのんびりと頑張りましょうという思いを込めて描いた絵だ。
事務所の弁護士たちが日々仕事を頑張る理由ともいうべきその思いを、その傍らで感じていた芹花は、表紙を書き下ろすことになった時、その思いを絵にしようと決めた。
この事務所で働き始めるまで、弁護士という存在はとても遠く自分とは縁のないものだと考えていた。
けれど、やむなく弁護士の力を借りなければならない弱者の苦しみを見る機会が増えるにつれて、弁護士が人々の身近に存在し力になることを広めたいと思うようになった。
三井の長男であり事務所の次期代表である三井慧太も、その事に関しては父親と同意見で、芸能人顔負けの整った見た目のおかげでマスコミから注目を浴びているが、仕事に差し支えのない範囲で取材やテレビ出演の依頼を受けている。
それもすべて、必要ならば誰もが弁護士を利用できる流れを作りたいという考えからだ。
芹花は事務所内での共通認識であるその思いを自分も実践しなければと、イラスト集を出すことにしたのだ。