極上御曹司に求愛されています

芹花は表紙を指でゆっくりと撫でながら、苦笑した。

「橋口君が後押ししてくれて、良かった。私ひとりだったら作業を進めながらも今ならまだ断れるかもって、うじうじ考え込んでたかもしれない」

小さな声で呟いた芹花に、橋口はちらりと視線を向けた。

「たしかにビビるよな。自分のイラスト集が全国の書店で発売されるなんて、嬉しくもあり不安もあるだろうな。まあ、作家名は伏せるし不安に感じることはないって」

芹花を励ますように、橋口は笑った。
同期というカテゴリーで考えれば、二人以外にも五人の弁護士がいるのだが、年齢も違えば職種も違う。
顔を合わせれば軽く言葉は交わすが、やはり立場の違いは大きい。
事務職の芹花にとって、弁護士でなく、広報担当として採用された橋口のほうが同期としての親しみを覚えるのは当然だ。
出版社の担当者二人と所長の三井、そして広報の責任者たちが書店のPOPをどうするかやテレビや雑誌での宣伝活動の内容を話し合っている。
どう宣伝すれば、多くの人の目に留まるだろうか、そして楽しんでもらえるだろうか。
積極的な意見が交わされるのを見ながら、芹花は改めて気持ちを引き締めた。
芹花のイラスト集だが、決して芹花だけのものではない。
事務所にとっては、生きやすい毎日のために弁護士を使うことは難しくないというメッセージを込めた大切なツールだ。
事務所に就職して以来、HPの制作に関わり、もちろん本来の事務仕事にも真面目に取り組んできたが、弁護士ではないことに疎外感を覚え、自分はこの事務所に必要なのか悩むこともあった。



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