金木犀
それから、仕事は急に忙しくなる。
1年かけて作ったシステムが最終段階に入って、プロジェクトで一番大きな機能を任されてた俺は、残業、徹夜続きで。
自分が責任を負って、何か作るってのが初めてで、何か問題が起きたときいつでも対応できるように、ほとんど会社に居るという生活を続けた。
仕事場はでっかいビルで、親切に食堂から売店からATM、仮眠室まで用意されてる。
ここで生活できんじゃん・・・って思うぐらい。
近くにはスーパー銭湯まであるし・・・
そんな生活が3週間続いた。
「慶太。」
会社に泊まって、目覚めてすぐ喫煙室でタバコを吸ってるとトヨさんが入ってきた。
「あ、おはよーっす。」
「また泊まったのか?」
トヨさんはグレーのストライプの細身のスーツ。
お洒落なんだよなー。
「はい、昨日の夜からトラブルあって・・・」
頭をボリボリかきながら答える。
この爽やかなトヨさんとは大違いだな、今の俺・・・
「無茶すんなよ。二日ぶっ通しだろ?」
「大丈夫、俺、頑丈ですから」
笑顔で答える
「バカ、体力に過信しすぎると後で痛い目みるっつの。気をつけろ」
「はーい」
トヨさんはマジで面倒見がいい。
だからトヨさん慕ってる後輩がいっぱいいるんだよな。
「今日の進捗会議、俺出てやるから仮眠とっとけ。あと、奈緒が来いって今日。晩飯作って待ってるってよ。」
「マジっすか?やったー、奈緒さんの料理、マジ美味いっすよねー。」
無邪気に喜んでいると
「それよりお前、奈々になんかした?」
俺の側により小さな低い声で言うトヨさん。
その声には、恐怖を覚えるような、寒気を感じた。