聖なる告白
口の周りに付いたソースを手の甲で拭いつつ、デッキから下りてくる。のんびりとした動作に、私はじれったくなって彼女に駆けよった。


「ほら、あそこだよ。波打ち際を歩いてる人!」


沙織に教えようとして海に顔を戻し、渚を指さした。


「……あれっ?」


さっきまでそこにいたはずなのに、男性の姿は忽然と消えていた。海水浴客に紛れたのか、それとも海に潜ったのか、数秒目を逸らす間に見失ってしまった。


「素敵な人ってどこよ。勇一君みたいな人?」


沙織の言葉に、私はぶんぶんと顔を横に振る。


「勇一君なんて目じゃないよ。もっとずっと、かっこよかった」

「へえ……優美がそこまで言うの、珍しいよね」


私があまりにも興奮したためか、沙織は少し戸惑った表情になる。だけど、うーんと考えてから、


「ひょっとしたら、また会えるかも。小さな島だし、同じ民宿だったりして」


小さな声でぼそりとつぶやいた。
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