触れられないけど、いいですか?
涙がボロボロに溢れて、目の前が霞んでよく見えない。
その時だった。


ーーペシン。


と。
左頬に、じんじんとした痛みを感じる。
視界は涙でぼやけているけれど、父に叩かれたのだということはすぐに分かった。


「お父、さん?」


父は「はあ」と溜め息を吐く。


「全く、さくらは何でいつもそうなんだ」


何でそんな我儘で駄目な子供なんだ、という意味かと思ったけれど……


「何でそんなに良い子でいようとするんだ」

「え?」

「いや、無理して良い子を演じてる訳ではないのは分かってる。さくらは昔から根っからの良い子なんだ。
だけどな、本音や我儘はもっと言っていいんだ。特に、父さんと母さんには」

「お、父さ……」


「安心しなさい。霜月さんと結婚しろなんて言う気はない。翔君のことが好きなら、諦める必要もない。今回の件は、さくらは何も悪くないのだから」


父がそう言うと、母も私に寄り添う。


「そうよ。さくらが翔君と結婚出来るように、父さんと母さんも手を尽くしてみるから。だから、涙を拭いて」

「お母さん……。ごめんなさい、迷惑掛けて……ごめんなさい、我儘言って……」

「何言ってるの。父さんも母さんも嬉しいのよ」

「嬉しい?」

「そうよ。だって初めてだもの。さくらがこんな風に感情的になって、何かをお願いしてくれることが」


そして、母が私のことを正面から抱き締めてくれる。

恥ずかしい。小さい子供じゃないんだから。


でも……


「ありがとう……」


でも、嬉しかった。
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