触れられないけど、いいですか?
その日の夜、私は部屋で携帯を取り出し、翔君に電話をしようかメッセージを送ろうか悩んでいた。
どちらの方が、伝えたいことを正確に伝えられるだろうかと、携帯の画面を睨み付けるようにしながら考えていた。

すると、なんとそのタイミングで翔君から電話が掛かってきた。


【もしもし】

機械越しに聞こえる、翔君の声。それだけで涙が出そうになって、悟られないように必死にそれを引っ込める。


「も、もしもし」

【はは。電話出るの早いね】

「えっと、ちょうど携帯いじってたから」

【そっか】


翔君の様子は、顔が見える訳じゃないから細かいところは分からないけれど、声を聞く限りは普段とそんなに変わらない様に思える。


だけど……今日の件に優香さんが絡んでいるとなると、翔君の耳にも既に情報が入っているのではないだろうか。
そうでなかったとしても、今日のことは私の口からきちんと翔君に伝えるべきだと思う。その為に、ずっと携帯と睨めっこしていた。


「あのね、翔君……」

だけど、今日のことを話し出そうとしたその時。


【さくら。今からちょっと会えないかな?】

彼からの突然の提案。普段の彼らしくないなとは思いながらも、


「うん。私も会いたいと思ってた」


そう答えたのは、大事なことは直接会って顔を見ながら話したいと思ったから。

そしてーー単純に、今、彼に凄く会いたがっている自分がいたから。
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