触れられないけど、いいですか?
え……? と、翔さんが目を見開き、驚いた表情で私を見る。


不安で涙が出そうになるのを何とか堪えながら、私はきっかけとなった出来事について、ゆっくりと話し始める。


あれは、私が中学一年生の時。

当時通っていた中学校へは、毎日運転手が車で学校まで車で送り迎えしてくれていたけれど、ある日運転手が風邪をひいてしまい、その日だけは電車で学校まで向かっていた。


朝の通勤ラッシュの時間帯に、吊り革に掴まりながら電車に揺られていると、お尻の辺りに違和感を覚えた。


すぐに、自分が痴漢に遭っているという状況に気付いた。


だけど怖くて、声を上げることはおろか、逃げることも出来ずにただ固まっていた。


大丈夫、あと二十秒位で次の駅に着く。着いたら電車を飛び出せばいい。

凄く気持ちが悪かったけれど、そう思って何とか必死に堪えていた。


……だけど痴漢の手は、なんとスカートを捲り上げ、下着の中にまで入ってきた。


味わったことのない恐怖に、私は無意識に悲鳴を上げた。


痴漢はその場で捕まったけれど、それ以来、私は男性と接することが怖くなってしまった。男性と話していると、その時のことを鮮明に思い出してしまうようになったから。
< 24 / 206 >

この作品をシェア

pagetop