触れられないけど、いいですか?
次の休日。私は一人で駅に来ていた。

出掛ける時はいつも車で送り迎えしてもらっていたから、こうして一人で歩いて出掛けること自体が新鮮だし、ましてや駅に来るなんて何年振りだろう。


……少なくとも電車に乗るのは、痴漢に遭ったあの日以来だ。



私はこれから、その電車に乗ろうとしている。
目的地は特に決めていないけれど、とりあえず三駅くらい先に行ってみようかと思う。


痴漢に遭ったあの日以来、電車に乗るのは恐怖でしかなく、しばらくは外で電車を見るのも嫌だったくらいだ。


今だって勿論怖いけれど……いつまでも逃げている訳にはいかない。

トラウマから逃げずに立ち向かうことこそ、男性恐怖症を克服する第一歩なのではないかと考えたのだ。


まずは切符を買い、改札を潜る。

階段をおりてホームに着くと、ちょうど電車がやって来た。

周りの人達が次々とその電車に乗っていくので、勢いに身を任せて私も乗り込んだ。
< 33 / 206 >

この作品をシェア

pagetop