触れられないけど、いいですか?

その後、上司にコーヒーを渡し終えた私は、デスク周りの最終チェックをしたのち、すぐに更衣室で着替え、オフィスビルを後にした。


……ついさっきまで、霜月さんと翔さんの話をしていたせいか、何だか無性に翔さんに会いたい。


そんなことを考えながらの帰宅途中、赤信号の横断歩道前で立ち止まった時、携帯に着信があったらしいことに気付いた。

相手はなんと翔さん。

着信時刻を見ると、五分程前に電話をしてくれていたらしい。
私が慌てて掛け直すと、電話の向こうからは【もしもし】という翔さんの優しい声が聞こえる。


「も、もしもしっ。ごめんね、電話、気付かなくて」

【ううん、俺の方こそ急に電話してごめん。仕事が早く終わりそうだから、今晩、夕食一緒にどうかなと思って】

「う、うん! 大丈夫!」

……会いたいと思っていた矢先、その彼からの食事のお誘いを受けた私は、道端だと言うのに顔がにやけてしまう。


その後、待ち合わせ時刻と場所を決めてから電話を切った私は、すぐに近くのデパートの化粧室に駆け込み、何度も鏡を見ながら入念にメイク直しを始めた。
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