触れられないけど、いいですか?
一階のロビーのソファに翔君と並んで座り、優香さんを待つ。優香さんとは、この後ここで会う約束になっているらしい。

平常心でいなきゃと思うのに、心の中はやたらソワソワしてしまう。家族ぐるみで仲が良いという翔君の幼馴染み……どんな方なのだろう。


数分後、背後から「翔」と彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。

翔君と同時に声のした方に振り向くと……そこには、黒のスーツをパリッと着こなした、細身でスタイルの良い女性がいた。


「優香。悪いな、仕事中に」


翔さんがそう言いながらソファから腰をあげたので、私も同じように立ち上がる。


この人が、優香さん……。

くりっとした丸い目は、二重でパッチリとしていてまつ毛も長い。
肌は白く、肩に掛からないほどのこげ茶色の髪はサラサラと綺麗に揺れている。

身長は、私より少し低いくらいだろうか。全体的に、とても可愛らしい雰囲気の女性だ。



「いいのよ。私も翔の婚約者さんにお会いしたかったから」

女性らしい高めの声でそう答えると、優香さんは私の顔に視線を移す。


「朝宮様、初めまして。わたくし、ホテルトーキョー・スリジエのブライダル衣装室に在籍しております、笹川 優香と申します。この度は誠におめでとうございます」

丁寧な言葉の後、綺麗な所作でお辞儀をされる。
私も「こ、こちらこそ初めまして。朝宮 さくらと申します」と挨拶を返した。緊張してしまい少し噛んでしまったから恥ずかしい。
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