学園スパイラル~七不思議編~
「いや。ちゃんと座っているよ」

「え。いるの?」

「まじか!?」

 耕平はぎょっとして思わず椅子から数歩、後ずさった。

「ほ、本当に、座っているのか?」

「うん。絵を描いている」

「絵? どんな?」

 健と耕平の目には、ただ真っ白なキャンバスがあるだけだった。

「おそらくだけど、誰かの似顔絵だね」

「似顔絵?」

「そういえば。油絵の習い始めって、二人一組になって相手の顔を描かされるよね」

 健がふと美術の授業を思い出す。

「まさにそれだろう」

 匠の目には、キャンバスを前にして苦悩する少女が映っている。

 相手がいないものだから、必死に記憶をたぐり寄せて描いているように感じられた。健の言うように、その授業でのものだと思われる。

 触り程度の油絵なのだが、そこから好きになる生徒もいるかもしれないと、一年目はひと通り美術をかじらせる。
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