クリスマスの夜に

「ねぇまだ後悔しているの?」
「何をだ?」
「お医者さん辞めちゃったこと」
「もう、引きずってねぇよ。」
「ホントかなぁ?」
「疑い深いなぁ。もう未練もないぜ。俺には喫茶店のマスターのほうが性にあっていたようだ」
「ただ珈琲入れるだけの仕事なのに?」
「そうだ、ただ旨い珈琲を入れるだけの仕事が俺には向いている」
「それって私のせい?」
 小気味よく響いていたブランコの音がやんだ。

「そうっかぁ、じゃぁ、今は満足しているのね」
「ああ、満足している」
「でも幸せじゃないんでしょ。いつも寂しい顔しているもの」
「幸せさ、こうして毎年君と出会うことができるんだから俺は幸せものだよ」
「恥ずかしいじゃない、そんなこと言うなんて。ずるい!」
「そうか、ずるいか。でも俺の本心だ」
「ふぅ-ん、そうなんだ。本心なんだ」

 ニッコリと微笑む彼女の顔を目に焼き付けるように眺めた。

 あとどれくらい彼女のこの笑顔を俺は見ることができるんだろうか? 今年でもう終わりになるのか、それともまた来年も……。その笑顔を俺は見ることが出来るんだろうか」

 一筋の涙が俺の目からこぼれた。
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