音にのせて

第12話 分からない感情の答え

香里奈ちゃんの別荘にやって来た夜、私達はバーベキューをしていた。
優しく耳に届く波の音と、上を見上げると綺麗な星が輝いている中、1階の広いテラスでは幻想的な雰囲気とは裏腹に、賑やかな声が響いている。
中央に置かれている大きなコンロの上には高級なお肉が焼かれていて、それを囲みながら笑顔で談笑をしている。
そんな様子を、私は1人少し離れた端の方に立ちながら眺めていた。

「どうしたの?」

そこへ、ニコリと柔らかい笑顔を浮かべながら真翔君がやって来た。

「疲れちゃった?」
「ううん。そうじゃないけど…」

横に並んで立つ真翔君から、凌玖達4人へと視線を向けた。

「…楽しそうだなって思って…」

凌玖は今までの事もあったからか少しぎこちない時もあるが、それでもどことなく表情が柔らかい。
それはきっと幼馴染である椎名君や紫央君、香里奈ちゃんと一緒にいるからだろう。
そんな4人の様子を見ていると、その輪に入る事を躊躇ってしまう自分がいる。

「…疎外感でも感じちゃった?」
「そういうわけじゃないけれど…」

疎外感なんて感じる方がおかしい。
4人は小さい頃から一緒なのだから、私には分からない空気感があっても悪い事ではない。
それでも、何故か心の中にモヤっとしたものがあるみたいにスッキリとしない。
その時、今まで考えていた内容とは全く関係無い疑問が、ふと私の頭を過ぎった。

「そういえば、真翔君と香里奈ちゃんはどういう知り合いなの?」

凌玖達4人は幼馴染という関係である事は分かったが、真翔君と香里奈ちゃんだけが繋がっていない事に気付いた。
以前、真翔君は中学校から柊木野学園に通っていると言っていた。その為、小学校を卒業と同時にパリへ行っている香里奈ちゃんとは学校以外の所で知り合っている事が考えられる。

「ああ、香里奈の母親と俺の母親が友達で、小さい頃から家族ぐるみで交流する事が多かったんだ。だから、俺と香里奈もいわゆる幼馴染ってやつかな」
「そうだったんだ」
「…まぁ、あとは…婚約者かな」
「…え!?」

さらりと言われた言葉に、私は驚いて真翔君へと視線を向けた。
そんな私の反応が面白かったのか、真翔君は小さく笑った。

「奏ちゃん、驚き過ぎ」
「だ、だって…婚約者って…」
「俺達には普通の事だよ。将来の跡取りとして会社に相応しい相手と結婚する。俺達は小さい頃からそうやって育てられてきた。だから、小さいうちから婚約者が決まっている事も、財閥や資産家の子供にとっては不思議ではないよ」

何でもない事のように言う真翔君だったが、私にとっては普通ではない。
こういう部分に触れると、やはり自分とは別世界なのだと改めて実感してしまう。

「でも、俺達は婚約者って言っても仮なんだけどね」
「…仮、って…?」
「香里奈には、好きな人がいるんだ」
「え…?」

真翔君は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべたまま、続けた。

「俺達が婚約者と決まった時、香里奈は俺に言ったんだ。『私は好きな人がいるから、真翔の事は好きになれない』って。親同士が勝手に決めた事なんだから香里奈は悪くないのに、あいつは正直だから。婚約者なのに他の奴を好きな事に罪悪感を持ったんじゃないのかな。申し訳なさそうに、今にも泣きそうな表情をしていた。そんな香里奈に、俺は1つの条件を出した」
「…条件?」
「高校を卒業するまでに自分の気持ちに整理を付ける事」
「それは…好きな人の事を忘れろって事?」
「それも選択の1つ。自分を振り向かせる事もできないのであれば、諦めた方が良い。でも、もし香里奈が自分の気持ちを伝えてうまくいった場合は…俺との婚約は解消する」

真翔君が真っ直ぐ見つめる先を辿ると、楽しそうに笑っている香里奈ちゃんがいた。

「例え家の為だと言っても、自分の気持ちを無視する事はない。香里奈にはそんな事に縛られず、自分の気持ちに正直にいて欲しいと思った。それでもダメだったら、そいつの事は諦めて俺との婚約を受け入れる。それが条件」

小さく笑っている真翔君だったが、その笑顔が私には切なく感じた。
真翔君の話す表情や視線などから察するに、きっと真翔君は香里奈ちゃんの事を大切に想っているんだろう。しかし、真翔君は香里奈ちゃんの気持ちを尊重している。それで本当に、真翔君は良いのだろうか。

「でも…それじゃあ、真翔君の気持ちは…」

私の言葉を遮るように真翔君は人差し指を立てると、私の唇へ優しく触れた。
驚きで言葉を止めた私は視線を真翔君へと向けると、綺麗な笑みを浮かべた彼と目が合った。真翔君のさらりとした長めの髪がユラユラと風に揺れ、真翔君の背後には綺麗な星が輝いているのが見える。

「…奏ちゃんは優しいね。でも、俺は俺の気持ちに正直になって行動しているだけだから、気にしないで」

そう言うと、真翔君は私の唇から指を離した。

「ちなみに、西園寺だよ。香里奈の好きな相手」
「え…?」
(香里奈ちゃんの好きな人が…凌玖?)

その言葉に、何故か心が動揺しているのが分かる。無意識に真翔君から視線を逸らすと、凌玖の隣りで笑っている香里奈ちゃんの姿が目に入った。それだけで、忘れかけていた心の中にあるモヤっとしたものが再び膨れ上がったように感じた。

「奏ちゃんも、自分の気持ちに正直になる事が大切だよ」

そう言うと、真翔君は私から離れていった。





翌日、私は香里奈ちゃんに連れられ、ドレスがずらりと並べられている部屋にいた。
本日は辻森グループ80周年パーティーの開催日。しかし、何も聞かされずにこの別荘へ連れて来られた私はパーティーに出席するようなドレスを用意していない為、香里奈ちゃんのドレスを借りる事となった。
今は香里奈ちゃんが私の為に数あるドレスの中からコーディネートをしてくれている。

「ねぇ!これなんてどう?」

そう言いながら、香里奈ちゃんは本日何着目かのドレスを手に取り、私へと見せてくれた。薄紫色のドレスで、背中がレースアップされていて可愛らしい。しかし、気になるのはスカート部分に深く入っているスリット。このお陰でセクシーさが倍増している。

「…そういうのも、ちょっと…」
「えー?これもダメ?絶対可愛いと思うんだけどなぁ~…」

残念そうな声を上げながら、香里奈ちゃんは再び他のドレスを選び始める。
先程から香里奈ちゃんが選んでくれる物は、背中が大きく開いている物や、胸元近くまで大胆に見える物など大人っぽい物が多く、私が着るのは恥ずかしさがあった。自分で選ぼうと思いもしたが、楽しそうにドレスを選んでいる香里奈ちゃんを見ると、切り出す事もできない。
そんな自分の情けなさに小さく溜め息をついていると、香里奈ちゃんが笑顔で別のドレスを手にやって来た。

「ねぇ!これは?奏にきっと似合うと思うんだけど!」

そう言って見せてくれたドレスは華やかな赤色のシンプルなシフォンロングドレス。ウエストには大ぶりなラインストーンダイヤが散りばめられ、大人っぽさの中にも可愛らしさもあるドレスだった。

「…可愛い」
「でしょ!じゃあ奏にはこれを貸してあげるから、早速着替えよう!」

そう言って香里奈ちゃんは私へドレスを手渡すと、近くにいた女性の使用人さんを呼び、そのまま私は別室へと連れて行かれた。
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