俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「道木さん?」


突然聞こえた女性の声。

思わず周囲を見回すと、向かい側の歩道に今、一番会いたくない女性が立っていた。


「……如月、さん」

「こんなところで偶然ね、今、帰りなの?」

「いえ、あの……」

歯切れの悪い私の様子に如月さんが、ああ、と片眉を上げる。


「ごめんなさい。この辺りが副社長の自宅だって知ってるのよ、私」

「え?」

「それこそ新居選びを散々相談されたから」

眉間に皺を寄せる姿にドクンと鼓動が大きな音をたてる。


それはどういう意味?


「今からひとりでお茶をしようと思っていたんだけど、よかったら一緒にどう?」

唐突な申し出に戸惑う。


なんで私を誘うの? 

如月さんはあの後、藤堂副社長と帰ったのではなかったの? 


できるなら断りたい。

けれど、今ここから逃げてもきっと如月さんは采斗さんに私と会ったと話すだろう。

逡巡しながらも頷くと、如月さんはふわりと相好を崩す。


「じゃあ、そうね……駅前のカフェにでも行きましょうか。今、九時前だけど、あの辺りは遅くまで営業しているでしょ」
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