俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
【今、どこだ?】

【今から帰る】

そのメッセージを目にした途端、立ち上がる。


「会えるわけないじゃない……」

弱々しい声が出る。

よくよく確認するとスマートフォンには彼から何度も着信が残っていた。


急いで、身の回りの荷物を集める。

スマートフォンやペン、書きかけの書類を入れようとした拍子にバッグを落としてしまい、中身が床に散らばる。


ああ、もう、こんな時に。


コントロールできない自分の身体に必死で落ち着くよう言い聞かせる。

散らばった中身を広い集めて確認もせずに入れる。


離婚届は後で書こう。

彼はまだ私の決意に気づいていないはず。


今、彼には会えない。

会ったらきっと泣いて縋ってしまう。

そんな真似はしたくない。


ほんの一時間ほど前に戻ってきたマンションを慌ただしく出る。

今の私に行く当てはない。


実家に帰るわけにはいかないし、こんな時に頼れるのは親友しかいない。

帰宅途中だろうかと思案しつつ、スマートフォンを取り出すと、彼から再び幾つものメッセージと着信があった。


どうしてそんなに私を気にかけるの?


涙の膜で視界が滲む。

小さく息を吐いて、スマートフォンの電源を落とす。


ごめんなさい、落ち着いたらきちんと話をするから。

今は少しひとりにさせて。


暗転した画面を見つめて、想いを込める。

最低だとわかってる。

でも今はこれしか方法が思いつかない。


最後に見た液晶画面は午後八時半すぎを示していた。


もう少ししてから、雛乃に連絡しよう。
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