堕天の翼
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何か…が、頭の奥で、響いていた…何かの音…

その音が、ようやく…消え失せた…

その音に、無理やり…覚醒へと引きずり込まれていた…。。

「……っ」

曖昧な…意識の中…、頭が重苦しく…考えがまとまらない…。。自分がいま、どこに居るのか? なにをしていたのか…?…それすらも…

すぐにも…、意識が遠のきそうな…そんな感覚の中…。。自分に覆いかぶさっている人物の身体の重さだけは感じ取れた…


やっと…、瞼を開け…身体を起こそう…とした時…、自分の身体の上にいた人物が…

「…悠…、気がついた…? 逃げろ…っ!」

その声には、聞き覚えがあった…。。その名で呼ばれるのは、いつぶりだろう…?

苦痛に歪む…その表情に…、少しずつ…覚醒へと…

「…漆原…っ?」

悠は、琢磨の身体から逃れようと…覆いかぶさっている…その身体を支え起こそう…とした…。。が、何か、生暖かい感触がした…

その何かがついた…自分の手を見つめる…。。その手にベッタリ…と染み付いた血痕…

ことの詳細が、理解出来ない…

「…これは…っ?」

その次に、目の前で血痕のついたナイフを持ち…震えている女…。。両の瞳から、ボロボロと涙をこぼしている…

「姉さん…、何を…?」

その、震えている奈都子…、腰から血を流している琢磨…。。それだけで、琢磨が奈都子に刺されたのだと…予想がついた…

「漆原を、刺したの…?」

やっと、それだけ言えた…。。微かに、呼吸が乱れる…

「悠、どうしょう…私…。まさか…、こんなことに…っ」

「…なんで、刺したりなんか…っ」

やっと、それだけ言えた…。。なぜ、何があったか?…なんてことは、どうでもいい…

腰を刺された…琢磨を、どうにか…

「姉さん…、救急車を呼んで…っ!」

先ほどから、動揺している奈都子は、泣きながら…首を左右に振り続ける…

「…早く…っ! このままじゃ、漆原が…」

それでも、首を左右に降り続ける奈都子…

その悠の腕を掴む琢磨は、荒い息をかきながら…

「…っ早く…、逃げろ…っ」

逃げるなら、いま…だ…と、何処かで、声が聴こえた…

が。。このまま…琢磨を放って…自分だけ、逃げることなど出来ない…

「姉さん…っ! 携帯を…っ!」

奈都子は、泣きながら…なおも首を左右に振る…。

悠は、今まで…こんなに子どものように…泣きじゃくる奈都子を見たことがなかった…

「捕まりたくな…ッ! こんな…、私…刺すつもりなんか…っ」

「……っ」

琢磨を助ける…方法がある…と、すれば…

悠は、重苦しいため息を1つ…ついた…

この人は、この状況下にいても…、自分が加害者であるということの認識がない…

「…分かった…。…傍にいる…。だから、漆原を助けて…」

その、悠の声に…奈都子は、ようやく悠の方に視線を向けた…

「俺が、救急車呼ぶから…。
…一緒にいるよ…、逃げよう…」

そぅ、奈都子に笑いかけた悠…。。奈都子は、悠の身体にしがみつき…

「悠、傍にいてくれるの? ずっと?」

その言葉に、
正直、迷いはあった…

が、漆原を助ける為には…
奈都子と逃げるしかない…という思いに至った…

悠は、大きなため息を1つつき…、力なく…頷き返した…


「……」
《これで…、良かったのかどうか…なんてこと、分からない…

ただの…時間稼ぎかもしれない…

でも、このまま…この人を、放っておくことなど出来ない…》

悠の脳裏に、愛しい人の笑顔が浮かんだ…

「……っ」
《瑞希…、これで…本当に…

さよなら…かもしれないな…っ》



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