~ジラソーレ・ひまわり~(礼文島から愛を込めて)
(恋人)
夏休みも終り、学校が始まった。匠は、あまり家に帰って来なくなっていた。

「聡、母さんは午後、病院へ行く日だから。あなた、匠に会うでしょ。連絡くらいつくように言ってね。」

「わかったよ。でもあいつ、最近休みがちでさ…。」

困った子…。夏海は、聡に頼むと、店へ向かった。


《夏海、おはよう。今日僕は、病院へ行くんだ。夏海は?》


《私も、午後から行くわ。》


《じゃ、いつものとこで。》


《うん、わかった。》


午後、病院へ行く車のなかで、匠からメールが来た。

《母さん、今日の夜、話があるから、美緒と一緒に家に戻るよ。》


夏海は、不安になった。
病院へ行くと、先生から話があった。この先は、水崎市の病院に転院して欲しいと言う事だった。それはもう、この先ずっと寝たきりという宣告だった。夏海は、病院の中庭のベンチでぼんやりとしていた。この先、どうすればいいのかわからなかった。


「どうしたの?夏海、ぼんやりして。」


颯太が心配そうに覗き込んだ。


「颯ちゃん…。」

夏海は、颯太の顔を見ると、涙が溢れてきた。


「どうしたの?夏海。何があった?僕に話して。」


そう言うと颯太は、隣りに座って夏海の肩を抱いた。

「颯ちゃん、今日ね、主人を水崎の病院へ移すように言われたの。家も売らなければならないの、匠は帰って来ないし…。今、いろんな事がいっぺんに起きて、どうしていいかわからない。」


「夏海わかったよ、落ち着いて。僕がついているから…きっと大丈夫だからね。一つ一つ、乗り越えて行こう。」


颯太は、人目も気にせずに、夏海を抱きしめた。


「颯…私には颯太がいてくれる。ごめんなさい。泣いてなんかいられないものね。」


夏海は、涙を拭って笑おうとした。

「夏海、いいんだよ。泣いても…僕の前なら。」


二人は見つめあった。


「そうだ!今夜くれないの丘に行かない?夏海は少し休んだほうが良いよ。」


「ええ、でも今日は匠と美緒さんが、話があるからって家に来るの。」

「そうか…、じゃ後でメールするよ。夜遅いほうが、夜景が綺麗に見える。」


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