~ジラソーレ・ひまわり~(礼文島から愛を込めて)
夏海は、匠の好きな物を、夕食に作って待っていた。聡も、早目に帰った。


「匠の奴、今日も学校休んだんだ。ゼミの先生が、このままでは単位落とすって…。」

夏海は、ため息をついた。
やがて匠と美緒が顔を出した。


「母さん、ただいま…。あの、知ってると思うけど…美緒。」


「美緒です。」


美緒は、そう言うと深々とお辞儀をした。椅子に座ると匠が口を開いた。


「母さん、俺、美緒と一緒になりたいんだ。二人で住みたい。大学はやめて働くよ。美緒を支えてやりたいんだ。」


夏海は、予想していたけど、ショックだった。


「匠!どうしてだ。父さん入院しているんだよ。母さん一人、置いて行くのか?母さんは支えてやらないのか?」


聡が声をあらげた。


「聡、お前がいるだろ。お前が母さんを…。」


いきなり、聡が匠の胸ぐらを掴んだ。


「なんだと!匠!」


「母さんは、お前がいるけど、美緒は…美緒には俺しかいないんだ。」

匠は、シャツを掴んだ聡の手を解いた。


「二人共、落ち着いて。」

夏海は、二人の間に割って入った。

「母さん、ごめんよ。俺達きっと上手くやるから。」

そう言うと匠は、逃げるように帰って行った。二人を乗せたバイクの音だけが、夜の闇に響いていた。


「母さん、」


聡は、夏海の側に寄り添うようにいた。


「俺は、母さんを守る。匠は絶対許さない。」


「聡、ありがとう。匠も、今は何を言っても無駄だけど、たった二人の兄弟だもの。」

「母さん、ごめん。俺何も出来なくて。」


聡は少し落ち着いてきた。


「聡、匠にも聞いて欲しかったんだけど、母さんこの家、手放そうかと思うの。父さんも水崎の病院を探さなきゃならないし、そうなったら小さいアパートでも借りて、住もうと思うの。」


聡は少し驚いた顔をしたが、夏海に心配をかけまいと、必死にこらえていた。


「あなたは、今まで通りバイトしながら、大学を卒業して。」

聡は頷くと、何も言わずバイクで出かけてしまった。

何もかもが、崩れ始めていた。
夏海はただ、運命に身を任せて流されて行く…。


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