監禁生活5年目

優しくてきれいで笑顔がとっても素敵で、いつも頭を撫でてくれていた。

そんなお母さん。



「…………………お…母さん?」 

私は長い廊下の先にいるお母さんを見た。

「………お母さん?……………お母さん…だよね?」

お母さんは私をじっと見つめ、そして手をひろげた。



「…花菜、久しぶり!」


「っ!!………お母さんっっ!!」

5年間ためていた涙が一気にあふれでてきた。

私は走った。

長い廊下を全力で。



信じられない


嬉しい  



やっと………やっと…やっと!やっと!!!



お母さんに会えた。



「おかぁぁさぁんっっ!!!!」 


私は叫んだ。

そしてお母さんの胸に飛び込んだ。


「…花菜。本当久しぶり、元気にしてた?」

穏やかな声だった。 


「…うん……ずっと…ずっと………お母さんに…会いたかったのっ!!」


5年間、ずっとお母さんのことだけを考えてきた。

朝も昼も夜もずっと。

寝ている時もお母さんの夢を見ていた。





そしてずっと思い続けていたお母さんが目の前にいる。


「お母さん…………会いたかった……本当に…」


涙が止まらない。今まで押さえつけてきた気持ちが涙と一緒に溢れ出てきている。

「……花菜…」

お母さんは私の髪を優しく撫でた。


私は自分の顔をお母さんの胸に埋めた。
本当に嬉しくて…安心して……





                         
                           
                        
                         
                           
                           
                   


気持ち悪い
 
  



「っ!!!!」

私はとっさに顔を上げ、お母さんから離れた。

「?ど、どうしたの?花菜?」

お母さんはいきなり離れた私を不思議そうに見ている。


「あ……いや…えっと………なんでも」

『キュルルル………』


「「 あ 」」

私のお腹が鳴った。

「…ふふっ!もー!花菜たらっ!お腹すいたのね!ふふふっ!早く言ってね、お母さんすぐご飯の用意するから!」

お母さんは笑いながら私の手を握ってつれていく。


「え…う、うん………」  




自分でもよくわからなかった。

なんでいきなり離れたりしたのだろう。

わからない………でも…なんか………………いや………



お母さんと私は長い廊下を歩き、1つの部屋に入った。

その部屋は知らない部屋だった。

きれいな部屋で、色々なところが光っている感じだった。

家具も私とお母さんで使っていたような物とは大違いなもので、おしゃれで豪華なものばかりだった。

私は上を見上げた。
キラキラ光る電気がある。

これを漫画で見たな………確か…シャンデリアだったかな?…名前は………

などと考えていたらお母さんが
「花菜!ここに座っててちょうだい!すぐに持ってくるから!」

と笑顔でその部屋を出ていった。

私は言われた通りソファーに座った。

とってもフカフカでなんとなく暖かい感じがする。


今までずっと1人でいたのに今は誰かそばにいてほしくてしょうがない。

私はソファーの上で体育座りをした。

これが癖になってしまった。

この5年間、1人でなにもしないでベッドにこうやって座っていたのだ。 



「………でも…やっとお母さんに会えたなぁ…」

そう思うだけで頬が緩む。




「………お母さん…まだかな…」




でも………………ここはどこなんだろう?


私とお母さんが住んでいた家ではない。

けれど、ならなんでお母さんはここにいたんだろう?


「………それにお母さん…ちょっと変わったな…」

髪も前に見たときより少し短くなっているし、服も前着てた時とは全然違う。

色々考えていると部屋の扉が開いた。


「お待たせ花菜!ご飯!持ってきたよ~!」
お母さんは色々な料理を持ってきていた。


「わぁ!美味しそうー!」

私はぴょんぴょん跳ねた。

「ふふっ!たーくさん食べてね!おかわりしてもいいから!!」

お母さんは笑顔で私の前に料理を並べてくれた。

「うん!いただきまーすっ!」

私はまずスープを手に取りゆっくりとすすった。

「ご飯美味しい?どう?」

「美味しいー!すっごく美味しいよ!ありがとうお母さん!!」

「良かった、花菜が喜んでくれて嬉しい!」

2人とも自然と笑顔になった。


本当に美味しいかった。

いつもと変わらぬ美味しさで次々と箸が進んでいく。

美味しい美味しいと言う私を笑顔で見ていたお母さん。


私が食べ終わると、お母さんは食器を下げてくれた。



私はお腹いっぱいになり、またソファーの上で同じ体勢になった。


「あー美味しいかった!………お母さん早く戻ってこないかなー?」



先程とは違いお母さんはすぐに戻ってきてた。

「ただいま、花菜。」

「………………………………」
「?花菜、どうしたの?」


「………………ねぇ、お母さん?」


「なに?」

「色々質問しても………………いい?」


「ええ、いいわよ。」


お母さんは私の目の前に座った。


なんでだろう、少し緊張してくる。


私は深く息を吸い込みお母さんに聞いた。

「………お母さん、ここは…どこ?私とお母さんが住んでいた家じゃないよね?」

「………ええ、ここは全く違う場所よ。お母さんと花菜が住んでいた家ではないわ。」

「だ、だよね………あと………お父さんのことなんだけど…」

「………お父さ…ん…」

お母さんの表情が少しかたくなった。

「私ね………さっき…お父さんに会ったの。私をずっと監禁してたんだ。お父さんはずっと……………」


「そう、お父さんに会ったのね」

「うん………なんで教えてくれなかったのお母さん?前に聞いたときはいないって言って……」

「ごめんなさい花菜…お父さんのこと…嘘ついてしまって……」

お母さんは目を伏せた。

声も少し震えている。

「あ……ち、違うよ!お母さんのこと嘘つきだなんて思ってないよ?」

「……でも…」

「そうだ!お母さん!前に私とお母さんが住んでいた家に連れってて!お願い!」

私はお母さんに頭を下げた。

「……花菜……………」

お母さんの声はまだ震えていた。


「……………花菜……顔を上げて?」

「お母さん……」

私はお母さんを見つめた。

お母さんは笑顔になったがそれは嬉しい表情ではないことはすぐにわかった。

「………ごめんね、花菜。」

「え?」

「花菜…ごめんなさい、あなたをこの家から出すわけにはいかないの…」


「……い…家?だ、誰の……………」

私はそのあとの言葉を言おうとしてとまった。
あるものが目の端でとらえる。


頭の中でうるさいほどの警報が鳴り響く。


見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見たら…………………………………壊れ……………




「ぁ…………………あぁっ……………」

私の視線の先には、1つの写真立てがあった。

写真には知らない男の人と知らない男の子………そしてお母さんが写っていた。


「な………なに……これ………」


私は写真立てを手に取った。

これはどうみてもお母さんだった。

ただ、後の2人は見たことがない。

お母さんの横にたっている男の人の指に、綺麗な指輪がはめてあった。

私はとっさにお母さんの指を見ようと振り返った。


そして

『パァンッ!』




私は何が起きたかわからず、気がつくと床に座っていた。


頬がジンジンと痛む。


………………………………叩かれ………た?……………お母さんが………私を………叩いたの?……………


「これに触らないで!!!!」

お母さんは今まで見たことない怖い顔で私を睨みつけてきた。

お母さんが力強く写真立てを握る。


そしてその手に先ほど写真に写っていた男の人もつけていた指輪がはまっていた。


「お………母さん?……………おか…あ…さん……………………なんで……」


私の目から涙がこぼれる。

お母さん?
どういうこと?
だれ?
その人達は誰なの?

なんで…………………なんで……………その男の子はお母さんに………似ているの?


「花菜……なんでって…当たり前でしょ…当たり前でしょ!?」


お母さんは写真立てを抱き締めた。

「そんな…そんな手で私の宝物に触れないでよ!!……勝手に取るなんて……」




お母さん?
なんで写真立てを抱き締めてるの?
前はいつも私を抱き締めてくれたのに、どうして?


お母さんの宝物は私じゃないの?


「宝物……………お母さんの宝物は……」

涙で視界がぼやける。

もう何がなんだかわからない。

「私の宝物は……家族よ!!!」

「家族………家族って……お母さ」

「もうそんな名前で呼ばないで!!!」

お母さんに大きな声を出され体が震える。


けれどなぜか私の顔は笑っていた。

「…お、お母さん?私、お母さんの子供だよ?お母さんが生んでくれて…」


『パァンッ!!』  

今度はちゃんとわかった。

叩かれた。

なんの躊躇もなく。


お母さんに叩かれた。


「花菜!なんで!?なんで私の前に現れたの!?もう二度と見たくなかったのに!!」

「……………お母さん……」


お母さんは部屋の扉を開け、大声で叫んだ。

「ねぇ!!だれか!!だれか来てちょうだい!この子を地下へ戻して来て!!」


お母さんがそう言うとすぐに複数の足音がこちらに近づいて来るのがわかった。


「地下……………地下ってもしかして……またあそこへ……」

体が震える。

また?またあそこに戻るの?

5年間ずっと一人でいたあそこに?

そんなの…そんなの………

「そんなのいやだよお母さん!なんで!?どうしちゃったのお母さん!!お願いだから元に戻って!前のお母さんに戻ってよ!!!!!」


大きな声を出して喉が痛くなる。けれどかまわない。


お母さんは私のそばにくると私の髪を引っ張った。 
「痛い!お母さん!」

「…なんで出てきたのよあそこから、せっかく二人とも閉じ込めておいたのに」


「…お母さん…二人って……………もしかしてお父さん…?」

お母さんはもっと強く私の髪を引っ張った。

「あのねぇ?最後に教えてあげるわ。あなたが監禁される前。私ねとっても素敵な人と付き合ってたの。」

「…え?」

「その人は私のことを一目惚れだと言ったわ。すぐに私たちはお互いを気に入り結婚が決まるまで時間はかからなかった。けれど…」

お母さんはとても冷たい目を私に向けた。

「その人は社長さんよ。私みたいな女が釣り合うはずがない。そう思ってた。でもその考えは違っていたの。」

お母さんはすうっと息を吸い込んで言った。

「花菜!あなたがいたから!あなたとあなたのお父さん!お前らがいたから…………私はあんなボロボロになるまで働いて、みっともない格好して……お前らのせいで私は苦しんでたんだ!!!」

お母さんは笑った。

「だから!私はあの人と結婚して、お前らを閉じ込めた!だれにも知られたくない、私の過ち、汚点。それを閉じ込めていた!お前たちを!なのに………なんで……でてきたんだよ!なんで!?答えなさい!花菜!」


「……お母さんに……会いたかったから……………」

届いてほしい。





そして私は家の従者らしき人達に地下へ戻された。


「二度とここから出るなよ」
そう従者が一人言って
『ガチャガチャンッ!』
鍵を閉めた。


床には踏まれて汚れてしまったリリちゃんと、踏まれて散ってしまったアルストロメリアの花が落ちていた。

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