監禁生活5年目




「…おはよう」


「おはようございます…」


「ここにご飯置いておくからね…」


「…あ、あの!!」


「…なに?」


「……欲しいものがあります」


「……何がほしいの?」


「…め、目覚まし時計とお花が…」

「……花?」

あいつは首をかしげた。

「はい。私はその……花が好きで…………それで」

「…………ふーん。そう。わかった、明日持ってくるよ」



「………ありがとうございます…」


『ガチャン』



これでいい。


緊張で固まってた体か一気に解放された。


「………よし。」



時計は壁掛け時計ならある。


けれどそれではダメ。


脱出するには置き時計が必要だ。


あいつが来るときが分からないとダメだから。


私は1つの作戦をたてた。


まず、明日花と時計を持ってきてもらう。

本当は花は別に必要ない。

ほしいのは花瓶。明日花と一緒にもらえたらいいけど、もらえなかったらまた頼むつもりだ。

そしてその花瓶を割る。


その破片を持ってあいつをドアの横で待ち伏せする。


そしてあいつが来たらあいつのアキレス腱を切る。


そうすればあいつが追いかけられずに脱出できる。


時計が必要なのは正確な時間をみたいから。

あいつは朝8時に来る。

目覚まし時計なら近くで見れる。

掛け時計はちょうどドアの所からは見えない。




「……リリちゃん。頑張るよ私。」


私はぎゅっとリリちゃんを抱き締めた。




私がこの前見たマンガ。


そこに、アキレス腱を切られて動けない女の人がいた。


それでこの作戦を考えた。




…………やっと


…………………やっとお母さんに






『…お母さん!!』


『……………………………』


『お母さん!?どうしたの!?なんで玄関で寝てるの?起きて!!起きて!!』



『……………は……な…』


『お母さん!死なないで!!お願い!!おかぁさぁんっ!』


『…大丈夫よ…………大丈夫だから』

『お母さん……』


『ごめんね、心配かけて。………じゃあこれから私、仕事だから。行ってきます』


『…………………いってらっしゃい…』






「…おはよう」


「おはようございます…」



「…はい、これ。昨日言われた花と時計。花は飾るんでしょ?花瓶も用意したからこれにいれてね。ここにご飯置いておくからね…」


「…はい。ありがとうございます…」



「………」


『ガチャガチャン』



よし。


花瓶も今日用意してくれた。



時計もこれでよし。




あとは割って明日あいつを待ち伏せするだけだ。




私は花瓶を持って台所に行った。


そして布で包んで思いっきり、


『ガシャンッ!』

「………割れたかな?」


恐る恐る見てみる。


「……いてっ!」


指先が切れた。


布のなかを見ると、かなりバラバラになっていた。


「いたた。気を付けなくちゃ、えっと……………大きいやつにした方が……」


私はそのなかで1番大きいやつを選んで持つところに布を巻いた。


「…………これでやっとお母さんに………」



今日もまたお母さんの夢を見た。


私が学校に行こうとしたら玄関でお母さんが倒れていたのだ。


お母さんの顔色は悪く、フラフラで仕事に向かっていた。


私はその日から家の家事を全部やることにした。

選択や掃除などはしていたが、料理などはお母さんがやってくれていた。

それを頑張って作った。もちろんお母さんみたいにうまくは出来なかった。料理本を買うお金もないので、学校の図書室で借りたり、おにぎりだけのときもあった。





……………お母さん。



いっぱいお話したい。



美味しいご飯もマンガもいらない。お母さんがいてくれればそれでいい。







「………おはよう」


「!!お、おはようございます…」


「…ここにご飯置いておくからね…」


「は、はい…」



『ガチャガチャン』



私の部屋が再び静かになる。


「………朝になっちゃった…」


私は時計をみる。


「…1…2……3、4、5………………13……15時間も寝ていたの?私?」



私はもう一度時計を見て数える。


「……なんでこんなに寝て…」



昨日は花瓶を割って冷蔵庫に隠してそのあとベッドに座っていた。


そのあとの記憶が全くない。


「……目覚まし時計をセットしとこう。最低でもあいつが来る3時間前には起きていなきゃ」








「…………あれ?」


私の手が止まる。


「……………鍵閉める音…………増えてる?……………あれ?」


私は昨日の音も思い出した。


「………なんで昨日から………もしかして……」




体から変な汗が出てくる。




「………脱出の……気づかれた?」



『ガチャガチャン!』


鍵を開ける音がした。


私はドアの方を見る。



「………なんで……」


なんであいつがまた来たの?


声に出せなかった。



あいつはまた手にギラギラと光る、包丁を持ってきた。
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