イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

「あなた、何も知らないのね」
「そうですね、何も知りません」


開き直った言葉しか出てこない。
事実だからそれ以上、どう言うこともできない。

結婚しているのは私の方なのだから。
離婚するにしても私と郁人の意思がなければ大丈夫なのだから、郁人が彼女との婚約を望んでいなかったのなら不安になる必要はない。
そう自分に言い聞かせて冷静さを保った。事実なのに、なぜだろう。

彼女はとても余裕で、そのことが余計に私の不安を煽った。

「そうよね、知らないから平然と彼と結婚できたんだと思うし」
「はい?」
「けれど、先のことは決めておいた方がいいわよ」

私の疑問形にはまるきり答えるつもりはないようで、更に意味の分からないことを言う。
不快感が込み上げた。

「どういう意味ですか?」

眉を顰めて尋ねた。
すると彼女は、当然のことのように口にする。

「その場しのぎの結婚を持ち掛けられてお金か何かで契約したんでしょう?」

今度こそ、頭が熱くなり感情的になるのを止められなかった。

「違います!」

確かに、最初、変なお見合いだなあと思って『契約的な結婚なのか』と尋ねた。
けれど、彼はそうじゃないと言っていた。

恋愛感情があったとは言わない。
けれど、私だから結婚をしたいと思ったと言ってた。

言ってくれた。
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