イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
お見合い結婚だから味気ないのはそんなものだと思うけれど、その場で箇条書きにされた結婚の契約事項やらそのスピーディさやら、さすがに普通のお見合いですらないのはわかる。


どうして彼は、結婚を急いでいるんだろう?


彼の言う結婚は、それそのものが完全に仕事の一部かそれに似たもの、便宜上でしか捕らえていないようだけれど、誰か好きな女性とかできたらどうするのだろう。


……あ。それが、離婚する必要が出来た時は話し合うことも考慮する、ということだきっと。


ちょっとだけ気が済んで、小説に集中しようとぱらりとページを捲る。最近はやりの乙女小説で、ヒロインが金持ちのヒーローと契約上の結婚をする、というものだった。


……この話の中では、本当の結婚と契約上の結婚は別物みたいに書かれてるけど、佐々木さんに取ったら本当も嘘もないようだった。結婚そのものが契約でできている、みたいな?


気が付けば、物語にかこつけて佐々木さんのことと結びつく。
タタン、タタン、とリズムよく揺られる電車の中で、今日はそんなことばかり考えていてあまり小説のページは進まない。

『そうだろうな。君はいつも本を読んでいるから』 

ふとした時に、あの時初めてみた微笑が頭に浮かぶ。その笑顔がどうしてもチラついて、少しも小説に集中できなかった。

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