イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
私の住むマンションは、会社のある駅から電車で五十分ほど離れた比較的閑静な駅にある。会社からはちょっと遠いけれど、最寄り駅からは徒歩五分ですむ。駅前に寂れた商店街があるだけの、静かな住宅街だ。


入社時からなので、通勤の道も電車の中の過ごし方もハンコを押したみたいに毎日同じで、慣れたもの。だけど今日は、電車に乗っている間、つい手にした小説から視線を上げて何度か周囲を見渡した。


思う相手は当然いない。佐々木さんが定時に仕事を終えることは滅多にない。おそらく今日も、まだ仕事中なのだろう。
彼のマンションの場所を聞いたが、確かに同じ沿線だ。出勤時の電車は、混雑するのが嫌でかなり早い時間のものを選んでいる。だから、本を読んでいるところを見られたなら、帰りの電車のはずだが。退社時間が重なることはあまりなかったように思う。


……いつも、何時ごろまで仕事をしてるんだろう?


少し、気になった。いくらお互いに自立した結婚とはいえ、一緒に住む相手が不健康なほどに仕事に忙殺されているなら、さすがに黙って見ていられるだろうか。

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