イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「郁人にきっちり頭を下げられたことだし、何かあったらいつでも連絡しておいで」と動木さんは言ってくれた。
そうしてふと、最初に動木さんを紹介してもらった時点で、郁人は何かを予感していたのだろうと気が付いた。

だって、あの夜のことだ。
何かあったら、動木さんを頼るようにと私に言ったのは。

「……心配、してくれたんだなあ」

同時に、気苦労をかけているのは私の方じゃないかと思ってしまう。
けれど助かった。ずいぶん心が楽になった。
だって、郁人以外のことで悩まなくていい。
郁人がちゃんと帰ってきてくれることだけに、意識を向けていられる。

「郁人、早く、帰って来て」

手の届かない人に恋をした。
それでも、私は手を伸ばし続けたい。

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