イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「歩実ちゃんは、今の会社に勤めたい?」
「え?」
泣き止んで私の息が整った頃、動木さんに尋ねられたことはちょっと唐突に感じて頭がついていくのが遅れた。
「えっと……勤めたい、というか、ずっと勤めてきたのでやめるつもりはなかったというか」
「もしクビになったらうちで雇ったげるからそこは心配しなくていいよ」
「え」
「あ、嫌ならいいけど」
「いえとんでもない!」
長く勤めた会社だ。河内さんという少し気楽に話せる人間関係も出来て、本当に辞めなければいけなくなったら寂しいのは寂しい。
けれど、郁人との生活と引き換えにはできない。その後、雇ってもらえるとこがあるなら、とても助かる。
「じゃあ、あとはその実家の方に手を出されたらだけど……そっちはまあ、早急にしなくても大丈夫だろう」
「え、そうですか?」
「リゾート開発を理由に土地を買い叩くにしたって、すぐではないだろう。ご両親も店を大事に思っているなら簡単には頷かないだろうしね。状況が変わるのを待とう」
「大丈夫でしょうか……」
状況が変わる、というのは、郁人が眞島の拘束から離れられるということだろうか。
「まあ、けど郁人が動けるようになるまでもう少しかかるかもしれないからな。念のため、うちのものに様子は見に行かせておくよ」
そう言ってくれて、ほっと身体の力が抜けた。
しかし、話している間に段々あることが気になって来た。
「……あの。動木さんって、どういう……」
「うん? あれ、言ってなかったっけ。俺、一応経営者でね」
やっぱりだった。
なんだかもう、すごい人だらけで感覚が麻痺してきてしまう。
しかももらった名刺に書かれた社名が、やはり誰もが知る建設会社のものだった。