イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

 敬語ナシ。名前で呼ぶのは少し時間がかかるかもしれないが、そこは枯れ女を妻にしたのだからわかってほしい。


「……蕎麦か。じゃあ別の店」

「え、そこでいいで……いいよ」

「美味い店がある」


 さっさと方向転換した彼に続く。
 決して優しくないしもちろん手を繋ぐような関係でもないけれど、男の人とふたりででかける、という大雑把なくくりで言うのならば、もしやこれは人生初デートではないだろうか。
 

 トリプルゼロで始まった新婚生活初日、夫婦で蕎麦屋に行った。彼と一緒に、天ざる蕎麦を食べた。
 これが、初デートだった。

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