恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。


 契約だとしても、恋人は恋人。
 そう思って律紀にお願いをしてしまう。いつもの夢だったら悩んだり恥ずかしがったりして、こんな事は言えなかったかもしれない。
 けれど、律紀が苦しんでいると思うと、何かをしてあげたかった。


 「あ、でも、おうちに来て欲しくないとかだったら無理にとは言わないよ。その恋人は恋人でも………。」
 

 彼からの返事がなく、夢は不安になってしまい。折角のお願いを自分でなかったことにしようとしてしまう。
 自分の言葉に自信がない夢らしい事なのかもしれないけれど、夢自身は言いながらも悲しくなってしまった。

 どうして、堂々と甘えられないのだろう。
 契約の恋人も、恋人らしいお願いも、勇気を出してお願いしているのに、どうしていつも、中途半端になってしまうのだろう。
 そんな風に悩みながらも、答えはわかっている。

 2人の関係が偽物だからだと。


 『夢さん。………お言葉に甘えちゃってもいい?』
 「え………。」
 『実は僕、料理とか苦手で、いつも外食か冷凍食品とかカップラーメンなんだ。恋人が作ってくれる手料理って憧れてて。』
 「律紀くん………。」
 『でも、今日はお粥ぐらいしか食べれなさそうで残念だけど。』
 「ありがとう、律紀くん。」


 律紀は本当にご飯を作って欲しかったのかもしれない。
 けれど、夢には彼が自分の気持ちに気づいて、家に入れるのを了承してくれたように感じた。
 彼の嬉しさと、彼に少しは認めてもらえたという幸せが、夢の胸を温かくしてくれた。


 『なんで夢さんがお礼を言うの?僕が助けてもらうんだから、僕がお礼を言いたいぐらいなのに。』
 「………そうかもしれないけど、なんか言いなたかったの。」

 夢は笑いながらそう言うと、律紀は『そっか。』と優しい口調で、そう言ってくれた。


 

 
 午後の仕事は、あまり集中できなかった。
 夢は、彼に何を作くって食べてもらおうかと、考えていたのだ。
 お粥ではなく、栄養がとれるおじやを作ろうとか、食欲が出てきた時に食べてもらえる作り置きのご飯を作ろうなどとも考えていた。



 少しでも彼のためにしたい。
 風邪をひいた彼のために、看病してあげられる。
 
 夢は就業時間が終わる定時になると同時に、職場を駆け足で出た。
 

< 47 / 131 >

この作品をシェア

pagetop