忘れられないひと【完結】




次に目覚めたのはガチャンと鍵が開く音が聞こえた時だった


「恭介さん?寝てますか?」


俺の好きな声
自然に口角が上がる
紗也に優しく起こしてもらおうか


「恭介さ……!」


その後の紗也の言葉が聞こえない


「紗也?」


そう言いながら身体を起こせば
紗也は口許を手で押さえながら震えていた


「おはよう、山野くん」


聞こえたのは、同期の女の声だった
俺の隣に寝ている姿は裸だろう
布団で隠しているが


「あ、ご、ごめんなさい」


紗也がそう言って出ていった
俺は隣にいる同期の女に「服着て」
そう言うと少し顔をしかめた


紗也以外の女の裸なんて興味がない
見る気もない


「帰れば?」

「……っ、山野くん私のこと好きだって……」

「間違っても言うはずない
俺が紗也以外を抱くはずもないから」

「最低」


そう言って出て行った
最低なのは、俺じゃない
他の女に優しくする必要もない


紗也に連絡するが出ない
メッセージを送るが既読も返事もない
それで初めて俺は事の重大さに気付いた


会社帰りに紗也のマンションに寄っても帰ってこない
卓也から優紀ちゃんに紗也の居場所を聞いてもらったりもした
それでも会えなくて一週間経った時に紗也から連絡があった


指定されたカフェにいって、久しぶりに会う紗也を抱き締めたくなる


「紗也……」

「恭介さん、私たち別れましょう」


そう、言われた




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