忘れられないひと【完結】



「卓也…………」

「あ、おーい、こっちこっち!」


まただ
さっきから俺が話そうとする度に上手く交わされる

しかも、他にも声を掛けていたのか
卓也は入り口に向かって手を挙げていた
二人じゃないなら話出来ない

俺は小さく息を吐いて入り口に視線を移した



「……………っっ」

「…………紗也…………」


1年ぶり
願望が見せた幻だろうか


「恭介さん…………」


あぁ、何も変わっていない
俺の名を呼ぶ紗也が大好きだった
紗也に呼ばれる名前を好きになった


幻なんかじゃない
目の前には、会いたくて会いたくて仕方なかった彼女がいた
あの時よりも更に魅力的で
俺はまた、彼女に一目惚れをした



「紗也…………勝手にごめんね
でも、ちゃんと話して
この1年二人とも感じたものがあるでしょ?」

「優紀…………」


彼女の戸惑いが見てとれた
そりゃそうだよな
紗也は、結婚するんだ

彼女が更に魅力的なのは
この1年が満たされていたからだ
俺ではない男に愛されて………

目の前の紗也の姿に強気だった心が沈んでいく


「優紀、ありがとう」

「合コンはいつでもセッティングするからね!」

「は?何それ!俺、聞いてないからな!
紗也ちゃん!優紀はダメだよ」


卓也が慌てて優紀ちゃんを抱き寄せた
合コン?
結婚するのに?



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